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9話 誰のことが羨ましい?



 ⋯⋯突然ですが私は今、すごーく恥ずかしい思いをしてます。主にアーシェおにーさんのせいで。


「ほら、あーん」

「⋯⋯何してるんすか」

「あーんしてる。幼児って人が食べさせたほうがいいんだろ?」


 真面目な顔をして、スプーンをこちらへと向ける、世間一般で言うあーんというものを、おにーさんからされていた。


「⋯⋯この数日間、あなたと一緒に旅をしたのは誰ですか?おにーさん」

「お前だな」

「その最中に、自分でご飯を食べることができなかった事がありましたか?ありませんよね?それに私、もうこんなことをされるような年じゃないんすけど」


 珍しく真顔で私がそう言えば、おにーさんは渋々といった様子でスプーンを私の顔の前から、自分の口へと運ぶ。


「⋯⋯育児って難しいな」

「おにーさん。あんた何、親みたいな顔してそんなこと言ってんすか」

「確かに親ではないが⋯⋯保護者みたいなもんだろ」

「それはそう」


 仮証を発行するお金も、宿に泊まる代金も全ておにーさんに負担してもらっているのだ。その点なら確かに保護者といえるだろう。


 ⋯⋯イケメンだけど、昨日私を奴隷商人さんたちから助けてくれたし、少しは信用してやってもいいですよ?でもね、育児は違うと思うんだですよ。


「態度が急に優しくなりすぎではー?」

「好意を持ってないし、年上じゃない。それに今までの行動は大体俺に非があった。つまり、反省したというわけ」

「反省した結果が私の育児をすることになるんですの?確かにおにーさんよりは年下っすけど、そこまで子供じゃないんすよ」


 朝食を食べ終わり、空になった食器を女将さんに渡そうと重ねて運ぼうとすれば、その食器をおにーさんにとられる。


「危ないから俺が運ぶ」

「⋯⋯おにーさん、私のことなんだと思ってるんです?」

「5歳か6歳のガキ」

「9歳ですっ!!」


 本当は年齢なんてわかんないし、仮証を発行したときに適当に9歳とか言ってしまったが、ここまで来たらもう、9歳で押し通してしまおうと覚悟を決めた。

 私は9歳でございます。一人で食器ぐらい運べるんで、なめないでもらいたいっすなー!


 そう思っておにーさんに抗議しようとするものの、当の本人はスタスタと歩いて女将さんに食器を渡して、すぐに席へと戻ってきた。帰って来るの早いな?

 

「⋯⋯俺が運んだほうが早かっただろ?」

「そんなことありましたけど、私にだって食器を運ぶくらい簡単ですよ!」

「はいはい、そーでしたか。それで?今日は何かしたいこととかあんのか?」


 ドヤ顔で戻ってきたおにーさんに、一応私も食器ぐらい運べたと主張すれば適当に流された。


「う〜ん、それなら冒険者ギルドに行きたいです!昨日おにーさん、結局あの後行けなかったみたいですし」

「⋯⋯いや、あれはここから離れるための口実だったから気にすんな」

「えっ?口実だったんですかっ?!」


 私が衝撃の事実に驚いていると、おにーさんはそろ〜っと視線をそらして気まずい表情になった。


「⋯⋯まぁ、それは一旦置いときましょう。でも、私もう一度ちゃんと冒険者ギルドを見て回ってみたいんです!」

「冒険者じゃないお前が見て回ってどうすんだよ」

「別にいいじゃないですか!私だって気になるんですよ!」


 冒険者ギルドに行きたいと主張してみれば、嫌な顔をしたおにーさんが面倒くさいと小声で呟いたのが聞こえた。

 ⋯⋯おにーさん、昨日女性の冒険者さんたちに囲まれたのがよっぽど嫌じゃったんすね。だがしかし!私は冒険者ギルドに行ってみたい!ざ、ふぁんたじぃーって感じだし!


「⋯⋯少しだけだぞ。行ったらすぐに帰る」

「はぁーいっ!」


 おにーさんが渋々といった様子で許可を出してくれたので、宿の扉を開けて外へと出る。すると、さわやかな風がほっぺを撫でた。


 わー!外の風が気持ち良いっすなぁ!⋯⋯⋯ちょっと日光眩しいけど。 


「おにーさん、冒険者さんだですよね?ギルドにいまましたし」

「あぁ。そうだな」

「冒険者さんには階級とかあったりするです?」

「あるにはある。S〜Fまであって、俺は今A級だな」


 おにーさんが自慢げにそう言ったってことは、多分結構すごいのだろう。説明通りなら上から2個目だし。でも、おにーさんならSも夢じゃないと思うんだけどなぁ。


『S級冒険者、アーシェ・ヴァレリウス』


 そうそう!そんな感じ!S級冒険者のアーシェおにーさん!ヴァレリウス伯爵家の三、男で⋯⋯?




 

 あれれ?何で私こんな事知ってるんだろ?というか、おにーさんって伯爵家の三男なの?え?はわっ?


『隠しキャラのルート解放には条件があります!そして、攻略難易度も一番高いです』


 え?うぇっ?かくしきゃら?こうりゃくなんいど?おにーさんが?え、どーゆーこと?た、確かにやけにイケメンだなぁとは思ったけども!


 どこからか機械音声が聞こえる。おにーさんが平然としているのを見るに、多分私しか聞こえてないのだろう。

 こちらが混乱しているのなどお構い無しに、機械音声は一方的に話し続ける。

 

『乙女ゲームのヒロインがアーシェのルートに入るには、過去編ですでに出会う必要があります』


 おとめげーむって⋯⋯あの乙女ゲームだよね?前世にあったやつ。アーシェのルートってことは、本当におにーさんは隠しキャラのアーシェ・ヴァレリウスなの?え?マジでぇ?


 私が混乱して黙っていたのを不思議に思ったからか、おにーさんが横を歩いている私の顔を、わざわざしゃがんでのぞきこんできた。くっ、顔が良い! 


「⋯⋯⋯おい、どうかしたか?」

「んぐっ、ちょっとイケメンは黙っててください!今必死なんですから!」

「そうなのか?」

「そうでごぜーますので、しょーしょーお黙りやがれください」


 不思議な顔をしているおにーさんに、ちょっとイラッとしたのが言葉ににじみ出てしまったが、仕方ない。これも、隠しキャラだったおにーさんが悪いのだ。

 

『過去編はメニュー画面にある回復薬(ポーション)のボタンを長押しすると、進めます。過去編の年はヒロインやアーシェが学園に入学するちょうど1年前です』


 学園に入学する1年前ってことは、もうヒロインちゃんはおにーさんと出会ってるのか?おにーさん、どう見たって少なくとも15歳以上だし。

 ⋯⋯でも、おにーさんは学園に行かないで冒険者してるしなぁ。何処かで台本(シナリオ)から外れでもしたのかな?


『過去編では、ヒロインの外見が桜色の髪と赤色の瞳となり、デフォルトに統一されます』


 ほへー?ヒロインちゃんって、随分と可愛らしい見た目をしてるんだなぁ。ま、まあ?私だって本当は赤色の目ですけどね?!一緒ですけどね?!

 べ、別に桜色の髪良いなーなんて思ってないよ?それに比べて、私はくすんだ灰色の髪かーとか全然思ってないし!!

 

 ヒロインちゃんの見た目に、少し嫉妬しながらも歩いていれば、前にいた誰かの脚とぶつかってしまったようで、頭上からきゃっという可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。



「──あっ!ごめんなさ⋯⋯いっ?」


 私がぶつかった相手に謝るために上を見上げれば、きれいな桜色の髪と赤色の瞳が視界に入った。


「⋯⋯⋯へ?」

「あなた、前を見て歩いたらどうなの?目ついてないんじゃないの?」

「え、あ?は、はいっ!ごっ、ごめんなさい!!失礼しましたぁー!!」


 私に容赦ない言葉をかけた相手から1秒でも早く離れたくて、隣にいたアーシェおにーさんの手を取って走り出した。

 もう一度誰かにぶつからないようにちゃんと前を向いて走ったし、問題はないと思う!


「───おい。急に走り出してどうしたんだよ?」

「わぁーあ、びゃっ?どっ、どど、どうしよー?!」

「⋯⋯お前がマジでどうしたんだよ。さっきの女に何か問題でもあったのか?」

「うえぐっ?!お、女呼ばわり⋯⋯?」


 おにーさんがヒロインを女呼ばわりしていることに驚いたが、2人はまだ初対面だろうし、おにーさんは女嫌いだから仕方ないのか?

 ⋯⋯というか、さっきのでヒロインちゃんはおにーさんと出会ったことになり、彼女はおにーさんのルートに入ったことになるのだろうか?


「⋯⋯まあ、この町にいたってことは彼女にはそのルートに入る意思があるってことだよね?」

「何の話だ?」

「おにーさんにはわかんない話ですよーだ!」


『ヒロインは誰にでも優しくて、明るい性格です』


 や、優しくて明るい性格⋯⋯?さっき、私が言われた言葉には、優しさや明るさが欠片も無なかった気がするんですけど⋯⋯?

 ヒロインちゃんってアーシェのルートに入っていれば、おにーさんといつかは結ばれるってことだよね⋯⋯?今の優しさのかけらもなかったヒロインちゃんと、女嫌いだったおにーさんが。



 

「⋯⋯⋯何か、それだとすっごいもやもやする」

「具合でも悪くなったのか?」

「違いますー。具合悪くないですぅ」


 何か分からないけれど、女嫌いのおにーさんがあのヒロインちゃんとくっつくのには納得がいかない。

 やっぱり、見た目はあんなに可愛いヒロインちゃんを顔の良さでおにーさんが誑かそうとしているからかもしれない。


「⋯⋯羨ましい」

「は?何がだよ」

「わかんないですぅーだ」


 可愛らしいヒロインに好かれているおにーさんに対してそう言ったのか、女嫌いのおにーさんから好かれているヒロインのどっちに対して言ったのかなんて、自分にもわからなかった。



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