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2話 髪結いの紐



リーシャは前世の記憶もあって、言葉遣いや喋り方が少し不思議なイメージです。

だからちょっと変なこと言ってるかもしれないですけど、普通のことなので大丈夫です。



「こらぁ、アーシェ⋯⋯おにーさん!料理当番、そなただったりするんだぞー?」

「⋯⋯⋯⋯寝坊した」


 アーシェおにーさんと旅を始めて三日目。未だにこの先にある町という場所には着かない。しかも、おにーさんは1日に1回、幻影魔法を見せてと言うだけでそれ以外は無関心。マジでひどい。なんなんや、あの方。


「もう起きてこないので、先に作っておいたりしてないんだぞ」

「⋯⋯⋯してねぇのかよ」

「してません!私、材料持ってないので!」

「⋯⋯そう言えばそうだったな」


 アーシェおにーさんは長い金髪に少しだけくすんだ緑の目とか言うすっごい、優しそうなイケメン貴族の顔面なのに、何かおっさんみたいな生活してる。

 顔面はイケメンだし、年齢もまだ15か16ぐらいだろーに、不健康な生活をしてる。もったいねー。

 

「アーシェおにーさんの鞄に入ってる食料、足りる?私の分でだいぶ減ってなーい?」

「⋯⋯別にお前が気にすることじゃない」


 一応気にかけてみるものの、そっけない態度を取られてしまった。ひどい、前世で生きた年齢と今世足したら、おにーさんよりもはるかに年上なのに。


 私には日本という場所で生きた、前世の記憶がある。とは言っても、その知識が今世にめっちゃ活かせるかと言われたら、そこまでじゃない。前世の記憶にいる私はすごい、げぇむ?ばっかりしてる人だったみたいだし。


「おにーさん、今日何作ってくれるのー?」

「肉焼いたやつ」

「⋯⋯それ昨日も食べたりしませんでした?」

「⋯⋯作るのが楽だからこれにする。文句は受け付けねぇ」

「はーい⋯⋯⋯ふぁっふ、眠いですねー」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 私がそうやってあくびして言えば、おにーさんは魔物のお肉を鞄から出して黙々と切り、私の発言を無視した。

 別に、もう無視は慣れたからいいですけどね?反応が返ってこなくて寂しいなんて全然思ってなかったりしませんから!


「⋯⋯おにーさんは手際がいーですよね。何年くらいやってたりするんです?」

「⋯⋯⋯多分、9年ぐらい」

「わぉ、私と同じくらいの時からですかー。すごいんですねー!」


 私がそう言ってベタ褒めしても、一切表情を変えずに切った魔物の肉を木の枝に刺し始めた。

 

 まぁ、相変わらずちょっとの会話しか交わしてくれないけど、これでも警戒はかなり解けたほうなんだろうなぁ。もうローブのフード被ってないし。

 ⋯⋯いや、もしかしたら私の目の前だと無意味だとわかって、被ってないだけかも。


「おにーさん、この先にあるって言ってたシェファーレって町は、後どれくらいで着くですか?」

「⋯⋯もう着くぞ。少なくとも3日以内に」

「それはもう着くって言わないような⋯⋯?」


 ⋯⋯どうやら、シェファーレはかなり遠いらしい。う〜ん、まだかかるかー。もう野宿飽きちゃったんだけどなぁ。


 私が料理していても絵になるおにーさんを見ながらため息をついていると、おにーさんの長い金髪がはらりと肩から落ちて料理に巻き込まれそうになっていた。

 うわぁ、あのままだと下にある火で燃えそう⋯⋯。髪結いの紐とか持ってないのかなぁ?


「⋯⋯髪の毛が、びゃっで、ボォーッですよ?」

「⋯⋯⋯何言ってるんだ」

「燃えちゃうってことですー。髪結いの紐とか持ってないです?」

「持ってない」

「えぇー、今までずっとおろしてたりしてたんですか?」


 もったいねー。こんなにきれいな金髪なのに、ずっとおろしたままとか、髪の毛に失礼だろーに。これだけ長けりゃ、ヘアアレンジとかだってできそうなのに。


「じゃあ、町に着いたら髪結いの紐を買うことをお勧めするですー。髪きれいだからもったいないし」

「⋯⋯⋯面倒くさい」

「あ、そうだ。じゃ、私が髪結いの紐作りましょーか?」

「⋯⋯は?お前何言って────」

「〈創造(クリエイション)〉!」


 周辺に漂う魔力をぎゅぎゅっと掌の上に集めて、髪結いの紐にする。お?意外といい感じなんじゃないか?私、センスあるかも!!


「はい、どーぞ!おにーさんの目と同じ緑色にしてみました!どう?おしゃしゃれー?」

「⋯⋯⋯お前、その魔法簡単に使うなよ」

「んー?何で?どうしてー?せっかく、作ったのに嬉しくないのー?」

「⋯⋯そういう力を持ってっから奴隷にされるんだろ、お前らは」

「はっ?!そっか、あまり見せない方がいいね!じゃあ、アーシェおにーさんの前でだけにするー!」


 私がそう言うと、おにーさんは呆れた顔をしながらも、魔法で作った髪結いの紐を受け取ろうとしてくれた。

 しかし、私が差し出した手を直前で引っ込めてみれば、おにーさんが半目で睨んできた。まぁまぁ、落ち着いて。


「⋯⋯せっかく作ったんだし、私が髪結んであげるよ!」

「────っ!」

「えっ?⋯⋯⋯痛いよー?」


 そう言って、私がおにーさんの髪に触ろうとしたら、パシッ!と手を思い切り振り払われてしまった。



 ⋯⋯うぅ、ジンジンする。おにーさん、ひでぇ。こんな愛らしい幼女に対しても、手加減無しかい。


「⋯⋯俺に触るな」

「はぁーい、ごめんなさーい。でもね、おにーさん高いとこで髪結んだほうがいいよ!髪すごい長いから!」

「⋯⋯⋯⋯」


 おにーさんは私の赤くなった手をジッと見つめると、すぐに視線をそらしてしまった。何だなんだ?振り払った後で、罪悪感でも湧いてきたんかー?


 私が勝手にそう考えてニヤニヤしてると、おにーさんはそんな私を見ないふりして髪を結んだ。

 幼女である私を無視している姿はどこからどう見たって冷たいが、何やかんやで私が言ったとおりに高いところで髪を結ぶおにーさんは優しい気がする。


「⋯⋯⋯にししっ」

「急に笑ってなんだ、気持ち悪い」

「いやぁ、アーシェおにーさんは優しいなぁって」

「⋯⋯⋯目でも腐ってるのか?」

「ううん!ちゃんと1割ぐらいしか優しいと思ってないから正しいよ!」

「⋯⋯⋯それはそれで腹立つな」


 1割くらいは優しいと思ってるのは事実でっせ?でも、9割くらいはまだ怪しいと思ってますからね!本当に私のことを奴隷にしないか怖いし!


「おにーさんは、まだまだ怖い大人の一人ですからねー」

「⋯⋯そーかよ」


 おにーさんはそう言ってそっぽ向いたが、肉が刺さった枝を火の中に落とさないようにちゃんと持っている。あ、そのお肉焦げちゃいそう。


「アーシェ⋯⋯おにーさん焦げそうですだよ?」

「⋯⋯おう。ほら、これお前のだ」

「ぶー、お前?じゃなくてリーシャ何ですけどー?」


 魔法契約書を書いたから、私の名前を知っているくせに、おにーさんは一度も呼んでくれない。いつもお前ーとかそんな感じだ。


「⋯⋯⋯リーシャ、食え」

「はーい!ふへへ、へへっ!」


 アーシェおにーさんにやっと名前を呼んでもらえたし、おにーさんは先に焼いた方のお肉を私にくれた!

 意外と優しいところもあるんだなぁ。1割から、優しさの割合を2割に増やしましょう!


「ありがとう、アーシェ!」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 おにーさんは私のことをお前とか呼ぶくせに、私がおにーさんのことを呼び捨てにしてみれば、当の本人は嫌な顔をしたまま、自分の分のお肉も焼き始めた。



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