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10話 ツンデレおにーさん



「え、ちょー可愛いんだけど!」

「いやいや、おねーさんのほうが可愛いし綺麗ですよ?」

「やだー!もうっ、リーシャちゃんったら!」

「事実ですから」


 何故、私が冒険者ギルドで女性の冒険者さんと話しているのかと言うと、全てはおにーさんのせいなのであります。


「リーシャちゃん!ちょっとこっちの書類整理お願い!」

「はい、わかりました!すみません、失礼します」


 カウンターにいる同じ服を着たギルド職員さんに呼ばれたので、女声冒険者さんに断りを入れてから、書類整理をしに向かう。

 そう。同じ服を着たギルド職員さんのもとに、なのです。


「ここの書類を整理すれば良いんですね?」

「そうだよ。リーシャちゃんが仮のギルド職員になってから、仕事が早くなったし、ありがとねー」

「いえいえ。私もお金もらってるので!」


 おにーさんが乙女ゲームの隠しキャラであり、ヒロインちゃんと結ばれる可能性があると気づいた私は、まずお金を稼ぐことにした。

 ヒロインちゃんと結ばれてしまったら、おにーさんと会うことはもうないだろう。だから、仮証発行のときや宿代の借金は早めに返さなければいけないのだ。


 しかし!冒険者は危ないので無理。それに、子供を雇ってくれるところなどほとんどない。

 しかし、あまりの人員不足で、子供すらも募集していたのがこのギルド職員なのである。

 

 だが、これが意外と楽しいもので、女性冒険者さんとこっそり恋バナしていたりもする。おにーさん関連の質問をされることもあるが、自分にわかる範囲ことなら答えていた。

 勿論、広まって困るようなことはバラしてないですよ?おにーさんの好きな食べ物とか、色とかぐらいしか言ってないです。


 私が勝手に心のなかで弁明をしていると、遠くから自分と同じギルド職員の助けを求める声が聞こえた。 

 

「ごめーん!誰かこの依頼貼ってくれなーい?」

「私が貼りますー!」

「ありがとー、リーシャちゃん!」

「任せてくださいです!」


 おねーさんから貼らなきゃいけない依頼の紙を3枚受け取ったところで、遠くから視線を感じた。けれど、この視線の正体を私は知っているのだ。

 

 さすがに、仕事をしてお金をもらっているということもあり、普段のような言葉遣いにはならないように気をつけてはいる。 

 だがしかし、たまに仕事中にもかかわらず、ポロッと出てしまうこともあるのだ!それがまさに、これなのである。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯おにーさん、視線が痛いです。美しいおねーさまたちに私が殺されるので、勘弁してくだせーでございます」

「⋯⋯本当に大丈夫なのか?」

「しつけーですねぇ。何回も大丈夫だって言ったじゃないですか!」


 そう。冒険者ギルドで働くともなれば、おにーさんがやって来る。腐っても⋯⋯いや腐ってなくても、あそこからこっそり私をじっと見つめているおにーさんだって、冒険者の端くれなのだ。A級は端くれじゃないかもだけど!


 ここにやって来るのは、まぁわかりますよ?依頼を受けるためには、ギルドに来なきゃいけないですもん。ですが!その回数と頻度が異常なのです。


「依頼を受けるか、依頼の報告以外の用でギルドに来るのはご遠慮いただきたいです。殺されますよー、主に私が」

「依頼が終わったから、報告に来ただけだ」

「⋯⋯さっき、依頼を受けたばっかじゃありませんでした?」

「あぁ。ほら、薬草採取してきたぞ」

「⋯⋯⋯⋯」


 おにーさんは肩にかけた魔法鞄から依頼にあった薬草を取り出して、自慢げな顔をした。

 ⋯⋯あれ滅多に見つからないから、A級の依頼だったはずなんすけど。まだ1時間も経ってないっすよ?早くない?A級冒険者にとって、これは当たり前なの?絶対、こんなに早くないと思うんだけど?え?


「⋯⋯では、あちらで依頼の報告を済ませてください」

「わかった」


 おにーさんがさらっと男性職員のカウンターへ行くのを見届けてから、3枚のこの依頼の紙をどこの級の依頼ボードに貼るのか確認する。

 右上に何級の依頼なのか書いてはあるのだが、たまに急いで書いているせいで読めないものもあるので、きちんと確認してから貼らなければいけないのだ。


「こっちはB級、この2つがE級で⋯⋯」


 依頼の紙の級を確認したところで、大きい依頼ボードにそれぞれ貼ろうとしたのだが⋯⋯届かない。背伸びしたり、必死で手を伸ばしてはいるのだが、そもそもの背が低いせいで全く届かない。

 

「後、ちょっと⋯⋯⋯」

「⋯⋯ここに貼ればいいのか?」

「わお?おにーさん?」


 私の手からひょいっと依頼の紙を抜き取ったおにーさんは、近くにあった箱から画鋲を取って、あっという間に3枚とも貼り終えてしまった。

 いや、イケメンかよ!⋯⋯⋯そういや、イケメンだったわ。今のイケメンムーブのせいで、おにーさんはギルドにいる女性の視線を釘付けにしていた。本人は気づいてないけど。余計なことしないでくだせー。視線が痛いっす。


 ⋯⋯というか、おにーさんはもしかして馬鹿なのでは?前に女性に囲まれて顔色を悪くしていたのに、また認識阻害のかかってないローブを着てきてるし。女性の方々からの視線が怖いですよ、おにーさん。

 

「一応、お礼は言っとくです。ありゃーとごじゃいました」

「⋯⋯A級の依頼はもう無いのか?」

「A級やS級の難易度の依頼がポンポンあったら、怖いですよ」


 A級の依頼ボードに紙が1枚もないのを見て、おにーさんは少し落ち込んでいるようだった。

 今日はA級依頼が2つあったはずだけど、その2つをあなたがものすごい速さで終えて帰ってきたんですよ?新しいA級依頼が、この短時間で貼り出されるわけないでしょっす。

  

「A級の依頼はもうないのでお帰りください」

「⋯⋯⋯⋯」


 遠回しに、おにーさんの視線がうっとおしくて邪魔なのでさっさと帰れと告げれば、彼はムスッとした顔で隣のボードへと手を伸ばした。


「────待て待て待て。他の級の依頼に手を伸ばすのは辞めてください。その級の依頼がなくなったら、その級の冒険者さんたちが困っちゃうでしょーが!」

「チッ、駄目か」

「駄目に決まってるでしょー?」


 私が必死に両手を伸ばしてアーシェおにーさんを止めれば、舌打ちをしつつも、おにーさんはすぐにやめてくれた。


 

 ⋯⋯私だって、そこまでは鈍感じゃないからさすがにわかる。おにーさんは私のことを心配して、依頼を受けては早く帰ってきて、様子を見に来てくれているのだろう。


 正直、前世の記憶もあるから心配するなと言いたいところではありますが、表面上は別にお前が心配だから依頼受けてるわけじゃねーし、という雰囲気を醸し出しているおにーさんには、何も言えないのです。


「⋯⋯⋯いや、かわいいですかよ」

「何か言ったか?」

「いえ、何も言ってないので用のない方はお帰りください」


 最近、おにーさんはただの優しいイケメンであり、本当のことを素直に言えない可愛い人であることに気づいてしまった。いわゆるツンデレに近いのである。

 

 目線があったときとかに10回に1回くらいは、はにかんでくれるし、その威力がまたえげつねぇ。 

 これが、乙女ゲームの隠し攻略対象キャラのギャップ⋯⋯⋯⋯恐ろしーでございますだ。


「⋯⋯⋯⋯別にいいだろ、帰らなくても」

「帰ってくださぁいよー。もうA級の依頼無いですし、私が仕事に集中できませんです」

「⋯⋯俺に帰ってほしいのか?」


 そう言って、こてんと首をかしげるおにーさん。ぐっ、顔が良すぎるぜ。これだから、自分の顔がいいことを自覚しているイケメンほど、厄介なものはないんだよ〜。

 そして、この顔で悲しそうな顔をされると、世の中のおねーさま方は断れないことだろう⋯⋯⋯おねーさま方は!!


「はい!今すぐにでも帰ってほしいです」

「⋯⋯⋯おい、流石の俺でもへこむぞ」

「できれば、落ち込んで早くお帰りください」


 さっきから美しい女性の皆さんから、殺意のこもった鋭い視線が私へと向けられているのだ。

 アーシェおにーさんみたいなイケメンは、争いの火種になってしまうので、早くお帰りいただきたいものですなぁ。


「⋯⋯手伝うことはないのか?さっきみたいな依頼用紙を貼ったりとか」

「ほとんどありませんね」


 できることなら速やかにお帰りください、と今度は相手に聞こえないように、心のなかで呟いた。

 私だって、少しくらいはおにーさんが様子を見に来てくれて嬉しかったのだから、本当に帰ってほしいわけではないのである。



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