牛乳
4時間目の授業を終えるチャイムが鳴り響くと緊張が走る。
給食当番の者は白い割烹着を身に纏いドレスアップを始める。
カレーライスを配当する役員を横目に非番の男子たちはこれから何かのタイトルマッチが始まるかの如くウォーミングアップを始める。
そう、今日は恒例の牛乳早飲み選手権が行われるのだ。
「この日が来るのを楽しみにしていた、、。」
独り言のようにポツリと呟いたのが牛乳飲み選手権のエース、まーし君、という圧倒的実力者だ。
10戦8勝6koという輝かしい実績を残している。
エントリーナンバー2は、吉田。
牛乳早飲み、という試合には一度も白星を上げたことはないがやる気だけは他の誰よりもあり闘争心も高いのが特徴だ。
吉田「今日の試合、負けるわけにはいかない。校庭を走って、高めてくる。」
そう言うと、吉田は僕たちに振り返ること無く足早に教室を出ていった。まるで、妻と子供を置いて海外に単身赴任する頑固な父親みたいな背中だった。
でも、その背中にどこか寂しさも感じた。
もう1人参加しているのが、しん君。
実力はと言うとまだ10戦2勝1koという戦績しか残せていないが、それでもまーし君から勝ったという実績がある影の期待株。その2勝も連続勝利、直近でいえば負け無しなのである。控えめな性格の為、まーし君に勝ったことを自慢するのは避けていた。
給食の配膳が終わり皆席に腰を掛けた。
担当の先生を筆頭に、
「いただきます。 」
ゴングが鳴った。
そのゴングと共に選手権の参加者は目の色を変え参加者は牛乳に手を伸ばす。
まーし君「今日調子悪いわぁ。調子悪い、昨日1時間しか寝れなかったからかな。1時間は寝たけどね。」
そう言うとドヤ顔でもう牛乳の蓋を開ける手前まできているではないか。
しん君はまだ牛乳のラベル剥がしに手こずっている模様だ。
「ここで勝たなきゃ、、。」
しん君は焦っていた。あのまーし君相手に連続2勝した自分への優越感で劣等感など感じていなかったのだ。
自分への傲慢さが招いた結果だ。まぁし君に連勝したとはいえ、影で練習していたまーし君に対して雲泥の差を感じていた。
焦る気持ちで隣接している窓からふと外を見ると、吉田が校庭を走っていた。
まぁしくんが牛乳を半分飲み終え、勝ちを確信した時、まぁし君は焦っていた為牛乳を吹き出してしまったのだ。
吉田は折り返し地点まできていた。
まぁし君「1時間しか寝てないからしくじった。いや、寝てないかも。寝たとしても20分。」
カレーライスからクリームシチューになったのを見て教室から悲鳴や罵声を浴びせられた。
まーし君と呼ぶ者も減り、その日であだ名が変わってしまったのだ。
実質、しん君にとってこれで3勝、いや、3連勝という結果となり幕を閉じた。
数日経ち、今日は第11回牛乳早飲み選手権の開催日。
早飲み選手権参加者は、まだかまだかと、もどかしい気持ちを抑え待ちに待った待望の日。
しん君「今日で4勝させてもらうよ。いや4連勝かな。」
しん君は3連勝している為自分に自信が付いていた。だが、自分に甘えず3連勝した優越感に浸る時間を惜しみ、どうすれば4連勝できるか、日々自問自答していた。
牛乳「さすがに4連敗はできない。ここで連勝と連敗を止めさせてもらう。」
牛乳もここで負ける訳にはいかないと焦っていた。自ら築き上げてきた実績を、アマチュアだと思っていたしん君に横から急に取られるのが堪らなく怖かったのだ。
吉田「ハハ、、。俺抜きで話を進めてないか?当たり前だが参加させてもらう。高めてくる。」
吉田はそう言うとウォーミングアップの為足早に教室を出ていった。