定番展開でも幸せになれるでしょうか
ヒーローとヒロインの視点が交互に出てきます。****部分が切り替え箇所です。わかりにくかったらごめんなさい。
では、はじまりはじまり!
あー、これよくあるアレじゃん、これ、前世で読んだことのある、「星々の舞い降る夜に」とかいう、ふた昔くらい前の、定番ベタベタなあのマイナー漫画のアレじゃん。
私、主人公の義兄王子を虐める妹のパルンディア姫だ。知ってるぞ、確か、正当な嫡男のお義兄様のウィータリスは、なぜか冷遇されていて、私を溺愛する国王陛下が、どういう訳かお義兄様を差し置いて、私を次代女王にしようとするんだ。その上、それに便乗してお義兄様にイジメをするのが、パルンディア姫。つまり私。
「お父様の次に王位につくのは私よ!」とか言っちゃって高笑い。いやバカすぎでは?無理無理、私には無理だ!
うぇーん、嫌だよぅ。ウィータリスお義兄様には嫌われたくない。
だってその後、確か復讐を誓ったお兄様に両親も私も倒されるんだったような気がする。違ったかな?でも定番だよね、その展開。
漫画のあらすじはそれとして、現実にナゾなのは、私、庶子なんだけど、なぜか義母の王妃様にも溺愛されているってことなのよ。お義母様、私、あなたの夫の浮気相手の娘ですのよ。しかも息子さんと同い年。いいんですかね?それに、自分の息子じゃなくて私を王位につけようとするなんて。
こはいかに?ナゾすぎる。
まぁ、まだパルンディアちゃん、可愛い幼女だし。使用人にもパールの愛称で呼ばれて可愛がられている。焦らず少しずつナゾを解明していくことにしよう。ついでに前世チートとか使って、ちょっとずつ立場を強くして、イザという時に逃げられるようにしておかないとね!これも定番。あー、思い出してよかった。
なによりも、ウィータリスお義兄様と良好な関係を築くこと。これ大事!なんてったってお義兄様は、漫画の主人公としてよくあるハイスペックなイケメン少年なんだもの!もー、眼福。お義兄様と私が手を繋いで歩いていたりすれば、周りは誰もが笑顔になるほどよ。わかる。わかるわー!
****
「ウィータリス、お前は優秀で、落ち着いて安定した性格だから、真実を話した方がいいだろうと判断した」
十二歳の時、父であるミョード国王陛下に呼ばれたあの日から、この国の第一王子である僕、ウィータリスの運命は変わった。
「お前は本当は私の子ではない。私の本当の子は、お前の異母妹とされているパルンディアだ。あの子が私と最愛の妃の唯一の子である」
「は……?」
その後のことは、衝撃ではっきりとは覚えていない。だが父の話は要するに、なかなか子に恵まれなかった最愛の妃リルドーが、ようやく子を産んだけど、女児だった。王はそれまでずっと、「離婚して新しい妃を」と勧める勢力をなんとか抑えてきたが、ようやく生まれた子が女児では近々、最愛と離婚し新しい妻を娶らなければならなくなる。どうしてもそれを受け入れられなかった王は、秘密裏に歳の頃合いや色合いが合いそうな遠縁の子である僕(正確には王の従姉妹の息子で双子の片方であったそうだが)を引き取り、妃が産んだのは男児として発表したそうな。
そして本当の子であるパルンディア姫を手放せるはずもなく、王は市井の娘に産ませた子供を引き取るという名目で手元に置き、僕の異母妹として育ててきたというのだ。
その時は夢の中のようで、ほとんど返事もできずにいたが、冷静になって考えるとひどい話だ。しかし両陛下の未だ冷めない熱愛ぶりを見ていると、さもあらんという気持ちもある。
そして自覚した。自分の立場がどれほど脆いのかということを。だが不思議と怒りは湧かなかった。
これまでにも、両親の義妹のパルンディアとの扱いの差をなんとなく感じていたが、こういうことだったのかと妙に納得もした。数日後にまた呼び出された時には、既に覚悟が決まっていた。
「父上……、いえ、陛下。僕、いえ、私は、死を賜ることになるのでしょうか」
陛下は愕然としていた。そして頭を抱えた。
「まだ幼いお前に、そのような覚悟までさせてしまったこと、すまなく思う。だが私はそこまで非道ではないつもりだよ。自分の我儘でお前の人生を捻じ曲げてしまったことも、すまなく思っている。もちろんお前の命を取ったりはしないよ。だが……、お前に王位を継承させるわけにはいかないことも、わかってくれるな?」
僕はゆっくりと頷いた。とりあえず命は助かったらしい。
王位といっても立憲君主制を施行している我が国での王権は大きくない。議会での発言権を持つ権威と伝統の証のような存在だ。心から欲しいと思ったこともない。ただ、それが当たり前なんだと思っていただけだ。
権威と伝統の証である存在。それは、その存在理由を損なうわけにはいかないことも意味していた。
「いずれお前には、なんらかの形で後継から引いてもらわなければならない。生活の保証はするが、次の王はパルンディアであることを心に刻んでおいてくれ」
僕は再びゆっくりと頷いた。
「パール……、パルンディア、様、は、このことを?」
陛下は悲しそうに僕を見た。
「いや……。このまま、知らせずにいる方法はないかと模索しているが……。それよりも私は、お前の飲み込みが良すぎるところを、少し悲しく思うよ」
勝手な言い草だ、と思わないでもなかった。「そんなこと認められない!」とでも言って暴れればよかったのか?そうすれば、僕を切り捨てる陛下たちの良心の呵責が軽くなるだろうけど。
僕は嘆息して正直な心情を話し始めた。
「……以前から、パルンディア、様は、私とは違う「なにか」をお持ちだと感じていました。聡明さとか、闊達さとも違う、言葉に当てはめられないなにかを。私には到底、持ち得ない物です。今から思うと、それは王家の血筋が持つ威光のようなものだったのかもしれません」
沈黙が落ちた。顔を伏せているので陛下の表情はわからない。だがしばらく後、深い嘆息が聞こえた。
「お前の感じているそれは、私も同様に思っていた。だが、現在王座にいる私が保証しよう、あの子の持つその「なにか」は、私は持ち合わせてはいないぞ。あの子の作り出す物や奇抜な考え方などは、理解が及ばないことが多々ある。あの子の持っている「なにか」は、王家の威光などではないだろう。
まあ、よい。お前には気の毒なことをしたと思っているし、お前をここまで息子として育ててきた愛情もあると知ってくれ。リルドー王妃に会って、これまで通りに母と呼んでやってほしい。そして、姫にはできれば伝えるつもりはないので、そのつもりで接するように」
言いたいことはたくさんある気がしたが、なんだか虚しくなって膝をついて礼をした。
「陛下のお心のままに」
立ち去ろうとする僕を、陛下は呼び止めた。
「ウィート」
愛称で呼ばれ、僕は立ち止まった。
「私は自分が我儘を通したことを知っている。始末はきちんとつける。全員が納得する形で決着をつけることを誓うよ」
そんなことができるものかと思いつつも、僕はなんと返したらいいのかわからず、ただ深く礼をして退出した。
****
やばい、なんだかウィートお義兄様に避けられてる。なんで?今までそこそこ仲良くやってたと思ったのに。
お義兄様は、たくましいのにどこか儚い危うさを持つ、なんとも魅力的な少年に成長した。うーん、素敵がすぎます、尊いです、美しいです、すっばらすぅいーーです!
かくいう私も、我ながら匂い立つような美少女に成長しましたよ。さすが、メインキャラクターの一員だけあると思うの。自画自賛!でももちろん、お義兄様をイジメたりしていないし、両陛下だってお義兄様を大切にしている。
それなのに、なんでぇ!?今までの努力は。納得いかんぞ。
私はお義兄様に突進を繰り返す。
「ウィートお義兄様〜!」
振り返るお義兄様は相変わらずお美しい。目の保養、目の保養。
「パール、どうした」
そして相変わらずお義兄様は私を悲しそうな目で見る。き、気にせず行くぞー!
「お義兄様が最近、お疲れのように思えましたので、甘い物でもと、先日ご好評をいただきましたタルトをまた作りましたの。ご賞味いただきたくて!」
「タルト……、ああ、あの不思議な食べ物か。あれは美味かった」
やったーー!まずは胃袋、ゲット!
「今回もお気に召すといいんですが。お部屋にお持ちしても?」
「え、君が自ら?」
「ダメですか?早く感想が聞きたいのです。それになんだか近頃、お義兄様が遠くに行ってしまったような気がして……」
お義兄様は首を傾げた。そんな仕草までステキ。
「遠くとは?目の前にいるではないか」
「物理的な距離ではなくてですね、心の距離の話です」
「ぶつり?心の距離?」
お義兄様はまだわからないご様子。しまった、そういう言い方は、しないのかな?
「とにかく、なんだか昔のように、お義兄様に甘えたくなってしまったのです」
私が言うと、お義兄様は驚いたようにまじまじと私を見た。
「こんなに大きな淑女になったのに、パールはまだまだ小さな子供のようだね」
そう言うと、私の頭にそっと手を置いてくれた。
わーい!イケメンの頭ポンポン、ゲット!
****
僕の境遇は、まだマシな方なのだと分かってはいた。だが、虚しさや寂しさが常にどこかにあり、僕を覆っていた。
そんな僕を明るく照らしたのが、義妹ということになっている、パルンディア姫だった。
僕はいずれ臣下に下り、彼女をお支えしなければならないというのに。あの方は僕のことを、義兄だと思っているというのに。
いつのまにか僕は、パールを恋い慕うようになってしまった。
僕を気遣い、僕を励まし、寄り添ってくれる明るく美しく優しい少女。快活で聡明で、奇抜で突拍子なく、目が離せない。心も到底、離せない。
先日は僕のために甘い菓子を作ったと言う。眩しい笑顔を弾けさせながら、昔のように甘えたいなどと言う。思わず手を伸ばしてしまったが、奥歯を噛んでそっと頭に手を乗せるにとどめた。
ああ、その髪を指に巻き付け、唇を落とすことができたら。その笑顔に向かって愛を囁くことができたら。
そんなことができようはずもない。だが最近は、空を見ては彼女の瞳を思い、花を見ては彼女の唇を思う。重症だ。
パール。パルンディア。君を愛している。どうしたら諦められるだろう。
苦しい。だが自分を律しなければならない。
この気持ちが消えるには、どうすればいいのだろう。
****
パールちゃん、十七歳になりました。この国では十八で成人だから、大人になるまで、あと一年。婚活が始まるのは、そのあたりからぼちぼちらしい。うーーん、まあね。そうなんだけどさ。曲がりなりにも姫だからさ。婚活は仕方ないかもしれないけど、お義兄様みたいな美形で強くて優秀で細やかな気配りができるパーフェクトなヒーローをずっと見てきちゃったからね。どうしたって、比べちゃうんだなあ。
わかってるけどさ。けど。
うえぇえん。パールちゃん、悲しい。
空を眺めて涙をこぼす美少女でありました。なんちゃって。
そんな呑気な?ことを思っていたある日、両陛下に呼び出しを受けた私。二人は(珍しく)真剣な顔で私に言った。
「パール……。あのね」
二人はまず顔を見合わせてから、お義母様が話し出した。
「どうやら、ウィートに……、あなたのお義兄さんに、縁談が来そうな雲行きなの」
縁談……?お義兄様に縁談か。覚悟していたものがついに来たな。私は腹に力を入れた。
「……そうですか。おめでとうございます。どのような方が私の義姉になってくださるのですか?」
二人は再び、顔を見合わせた。
「それが、正式な打診はまだなんだけど……。婿入りのお話なのよ」
……。……え?
「えええっ!!なぜですか!お義兄様は、我が国の後継者なのですよ!婿になど出せるはずがないではありませんか!」
「……でもねぇパール。お相手は、大国なのよ。お断りするのは、なかなか難しそうなの。婚約者でもいれば話は別なんだけど、あの子にはいないしね……」
そう言うとお義母様は私をチラリと見た。
「だからもし、この先、正式に申し込みがあって、ウィートが婿に行くことになったら、あなたは唯一の王位継承者となるわ」
「ダメです!」
私は立ち上がった。
「そんなのダメ!絶対ダメッ!継承者は、お義兄様です!」
私、本当は、ずっと思ってた。実は私、お父様の庶子じゃないんじゃないかって。だってほら、定番の展開じゃん?実は血のつながらない兄妹でした、とかって。それに、あまりお義兄様と似てないとか、お義母様の私への態度が夫の不倫相手の娘にしちゃおかしいとか、他にも色々、察するところがあった。
でも、ということは、私は王家の血を引いていないことになる。それなのにお義兄様を差し置いて私が王位を継承するとか……。それを簒奪という。
そこへノックの音がして、お義兄様が部屋に入ってきた。私は素早く駆け寄り、お義兄様にかじりついた。
「お義兄様、お義兄様!」
「パール……?どうしたんだ、一体」
お義兄様は面食らっていた。珍しいことが続く。
「お義兄様、行ったらダメです!婿入りなんて、しないで!」
「婿入り……。ああ、あの話か」
お兄様は冷静に呟くと、私をそっと引き離した。
「まだ決まった話でもないしね、ありがとう、パール。私なら、大丈夫だから」
「そんな……!お義兄様……。お願い、行かないで……!」
お義兄様は本当に困ったような、まるで泣き出しそうな顔をしている。
「パール!いい加減にしなさい、ウィートがどんな気持ちだと思っているんだ!」
お父様が叫んだ。
お義兄様の、気持ち。
「知らないわ!」
私は身を翻すと、部屋を駆け出た。
どうしよう、どうしよう。
このままじゃ、本当に私が女王になってしまう。絶対にそれだけはダメだ。それに、お義兄様が、いなくなる。そんなの、嫌だ。ああ、お義兄様。
一体どうしたら。
私がベッドで泣いていると、ノックが聞こえてお義母様が入っていらした。
「パール……。私の可愛い子。お願いだから泣かないで」
お義母様に抱きしめられ、優しく理由を聞かれたら、もうダメだった。私は、幼い頃から自分が家族とは血が繋がっていないと考えていること、決して私が王位についてはいけないと考えていることを、しゃくりあげながら話した。
「そう……」
お義母様は私の髪を撫でると、ため息をつき、話し始めた。「本当のこと」を。
****
行かないでと泣き縋るパールの姿が瞼に焼き付いている。触れた柔らかく小さな肩の感触が脳裏から離れない。この有様で、縁談相手とうまくやっていけるはずもない。なんとか気持ちを整理せねばと苦悶の日々を過ごしていたら、ある日、僕は両陛下に呼ばれた。
「ウィート。私の娘をどう思う?」
開口一番、王が言う。
「ど、どうと言われますと?」
陛下は横目で僕を見た。そんな陛下を王妃様が優しくたしなめる。陛下は、嫌々といった風情で話し出した。
「お前を婿に出すのは次善の策と言ったろう」
そういえば、大国からの縁談が来そうだという話があった時、そんなことを聞いた気がする。陛下はさらに嫌そうに話を続けた。
「私はパールが生まれてから十七年の間、自らが起こした事態の解決策を模索してきた。女性の社会進出に努め、王位の継承も、隣国は女王だし、性別に関わらず第一子を王位継承者にすると定めた国もある。我が国も流れに乗るべきだとね。おかげで国も随分と変わってきた。今なら女王も受け入れられるだろう。
だが、あの子を継承者とするには大きな障害がある。あの子を庶子として発表していることだ。どう誤魔化しても、実は嫡出子でしたごめんなさい、で済むわけはない。
だから、お前を大国から望まれて仕方なく婿に出すと言う形を取ればどうかと考えた。お前がいなければ王位はパールが継ぐしかない」
僕は黙って陛下の言ったことを考えた。突然の縁談は、そんな思惑があったのか。
「だが、あの子が王位についたら、王配をもらうことになる。そうなれば私に以前、離婚を勧めてきた貴族のどこかから選ばなければならない。しかし、それではパールの発言権も、王権も、さらに弱まることになる。パールは市井の女性との庶子とされているからね」
僕は頷いた。庶子とされるパールしか王家に残らないとなれば、「そらみたことか、だから新しい妃を持っておけばよかったのだ、今後は我々の意見をよく聞くべきだし、出自のわからない母親を持つ女王には、しっかりした後ろ盾がある王配が必要だろう、例えばうちの子とか」などと言い出す輩が現れるだろう。次々と。
「それに、お前のことだってね」
陛下は僕を見た。
「お前が婿に行ったとして、私の実子ではないという秘密が漏れれば、あの大国が「謀られた」と攻め込んできても文句は言えない。秘密を抱えたまま、生涯怯えて過ごすことになる。お前も、私も」
確かに。それは必ずそうなるだろう。
「なにより、肝心のパールがあの反応だ。あそこまで拒絶するとは思わなかった」
陛下は残念そうに口をつぐんだが、大きく嘆息して頭を振った。
「この「次善の策」は欠点が多そうだ。ではどうする?そこでだ。私がこだわりを捨てさえすれば、全てうまくいく手段がひとつだけある。「最善の策」がそれだ。だから聞いている。お前、うちの娘をどう思う?とな」
ここまで聞いても、なんのことだか意味がわからない。僕が沈黙を貫いていると、陛下は僕をじっと見た。
この方は少々、鈍感で強引なところはあるが、一国の王としてバランスの取れた危なげのない人物だ。この人が自分の娘をどう思うかなどと言うからには、意味があると思うのだが。
「……パールについては、『十七年前、国王である私の娘である可能性が捨てきれなかったため、責任を持って庶子として遇していたが、この度、正式に私の子ではないことが判明した。したがって第一王女パルンディアを王籍から離脱させるものとする。ただ、十七年間、娘として慈しんできた情がある。公爵家に正式な養女として引き取らせるものとする』と発表するつもりだ」
僕は顔色を変えた。
「ま、まさか陛下!それではパルンディア様が女王になれないどころか、王家の血を継ぐ者がいなくなってしまいます!」
「そうでもないさ。現在、王位継承に最も近い男に、パールを娶って貰えばいい話だ」
現在、王位継承に最も近い男。近い……男!?
それは……、それは僕じゃないか。
「陛下……」
「ウィート。私は、お前の気持ちに気付いていた。もちろん王妃もだ。だが私は、どうしてもパールを王位につけたかった。そもそもお前とパールは身分違いでもある。だからお前が苦しんでいるのを分かっていたが、諦めてもらうしかないと思っていた。しかし、王妃に説得された。王位につくことが、そして政略で会ったこともない男と添わせるのが本当にパールの幸せなのかと」
僕は黙って俯いた。ほおが熱い。持ってはならない想いを持ってしまったことを、よりにもよってその父親に知られるとは。
「王となったお前の王妃となり、血統を残す。女王であらずとも、お前はパールの意見を無視したりできないだろう?それに、パールだってお前のことを、憎からず思っているようだしね」
「な……、にを、陛下、パールは、パルンディア様は、僕のことを義兄だと思っているのですよ!」
「何を言っているんだ、今さら。あの子は気付いていたよ。それも、随分幼い頃からのようだね。立場は逆だと思っていたらしいが、今ではお前は本当は遠縁の親戚なのだと承知している」
僕は衝撃で目眩がした。パールが、知っていた。それが事実なら、僕は……。
あれ、おかしいな。まぶたが熱い。止まらない。
ポタポタと涙を落とす僕を、王妃様が歩み寄って肩を抱いてくれた。あたたかい。
「これ以上、私の口から告げるのは野暮か。だがウィート。全てはパールの気持ち次第。お前、全力で口説けよ。娘の父親に口説くよう説得される男もそうはいまい。いいか、失敗は許さん。そして首尾よくいったら、一発殴らせろ」
僕はハンカチを受け取りつつ、苦笑した。
「……どちらにしても僕は痛い目にあうということですね、陛下」
陛下は朗らかに笑った。
「お前、あの日から一度も、私を父とは呼んでくれなくなったな。だから、義父と呼んでくれる日を楽しみにしているよ。ほら、さっさと行った行った」
僕は我が国の国王陛下の尊いお言葉に従った。
招き入れられたパールの部屋は、無秩序さがおおよそを占めていた。しかし、美しく無機質に整えられた部屋よりも、彼女らしさを感じた。
「お義兄様!なにかありましたか!?」
「え?なにとは?」
「その、涙の跡が……」
僕は面映くなり、下を向きながら、「もう知っているとは思うけど……」と前置きして、これまでのことを話し出した。そして。
「パール、パルンディア姫。お慕いしております。どうか、結婚していただけませんか?」
パールは嬉しそうに微笑んだが、恥ずかしそうにもじもじしだした。
「お義兄様、いえ、ウィート様。とても嬉しいです。お返事をしたいんですけど、あの……」
そう言って、僕の後ろの扉を見やった。
「お父様とお母様が先程からあちらにいらして、覗いているのです」
僕は振り返り、扉を大きく開けると、この国の最高権力者で、権威と伝統の証の二人が、すたこら逃げていく姿が見えた。
その後、僕たちは未来を誓い合い、口付けを交わした。
化粧を直すというパールを置いて、僕が先に両親の待つ部屋へ戻ると、二人はすでに満面の笑みだった。主だった陛下の側近らまでニヤけている。僕が両陛下を軽く睨み、「覗きはいけません」と言っても、二人は顔を見合わせながら、意味ありげに笑うだけだ。
そこへ、パールが部屋に入ってきた。彼女は何やら巨大な扇を手にしている。意外と軽そうではあるが、あんなに大きなものを、どうするんだ?あれでは開くこともできまい。父王も怪訝な顔をしていたが、僕と彼女を呼び寄せると、僕の肩を叩きながら上機嫌で叫んだ。
「約束したろう!全員が納得する形で決着をつけると!いや、よかったよかった!」
いや、よかったよかった、じゃないだろう。僕は沈黙したが、パールは眉を吊り上げた。
「お父様。お父様が、お母様と別れたくないがために画策した、数々の、余計な、あれこれがなければ、私がウィート様と結ばれる未来は夢のまた夢でございました。そこは感謝いたします。でも、全員を引っ掻き回したこともまた事実。ですから、一生に一回だけ、言わせていただきます!」
そう言うと、巨大な扇を振りかぶった。
「こンの、クソ親父ッ!」
バッッチーーーンッ!!!
パールが叫びながら振り下ろした扇は、父王の脳天に直撃した。だが音に反して王はそれほど痛くもなさそうだ。
しばらく唖然とした沈黙が落ちたが、最初に王妃が吹き出した。それをきっかけに、皆が笑い出す。僕は慌ててパールに駆け寄ると彼女の手から巨大扇を取り上げ、彼女の両手が無事かを確かめた。
「おいおい、パパの心配は?愛娘と愛息子がひどい!」
父の言葉に笑いが大きくなる。僕も愛しいパールの肩を抱きながら、腹が痛くなるまで笑った。
めでたしめでたし。
お粗末様でした、平手かハリセンか迷った。最後までお読みいただき、ありがとうございます!