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地下の声  作者: kazoo
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第七話 「歪む日常」

悠太は、会社だけでなく家庭にも影響が出ていることを感じていた。

笑顔で明るく話す美咲から聞こえてくる「声」は、日頃の不満や愚痴のような言葉ばかりになる。美咲が口にも、態度にも出さないことが、余計に言いようもない不安、不満になっていた。「声」が聞こえてしまうことで、普通に過ごすことがますます難しくなっていた。


ある日曜日、美咲と一緒に近所のショッピングモールへ出かけた。

最近、様子がおかしい悠太の気分転換にと、美咲が提案したのだ。

モール内は家族連れで賑わっており、悠太も美咲とのんびりと買い物を楽しむつもりでいた。

モールに入ると、新しいキッチン用品を見たいと店を回った。


美咲は色とりどりのキッチン用品を手に取りながら、楽しそうに選んでいる。悠太は少し離れた場所から、彼女が嬉しそうにしている姿を見守っていた。悠太の気持ちが穏やかになるのを感じていた。


その時、調理器具を眺めていた悠太に店員が話しかけてきた。

「何かお探しですか?」

「ああ。ちょっと電子レンジを・・・。」

「それなら、こちらのモデルが最新式で人気の商品です。」

と店員が案内する。


悠太が答える前に、店員の「声」が頭に響いた。

「多分、買わないだろうけど、他に買いそうな客もいないから。」


「どんな機能なんですか?」と悠太が聞きかけると、


「あそこの家族連れが買いそうだ。」と店員の声を聞き、

悠太の質問を無視してそっけなく立ち去ろうとしたことが、悠太の癇に障った。


「ちょっと、その態度、あまりよくないんじゃないかな。」

悠太は思ったことをそのまま口にしていた。


「お客様、どうされましたか?」

店員が慌てて対応するが、悠太にはさらに「この客、何か鬱陶しいな」という「声」が聞こえていた。


「ちょっと、君、態度悪いよ!」

少し強い口調で悠太が言うと、店員は困った様子で「大変申し訳ございません」と声を上げた。

悠太と店員のやり取りに周囲の客からも注目を浴びる。


それを見た美咲が悠太に慌てて駆け寄り「どうしたの?」と声をかけた。

しかし、悠太には美咲の「こんなところで騒ぎ立てないで。恥ずかしいから」という「声」が聞こえていた。

悠太は美咲をキッと睨むように見てしまい、美咲は驚きと不安の表情を浮かべた。


美咲に手を引かれ、店を後にするが、レジの店員を見ると

「クレーマーかしら」

「何かいちゃもんつけられているのね」

という批判的な「声」が聞こえる。


店を離れた後、美咲が問いかけた。

「どうしたの?急にそんなことを言うなんて、悠太らしくないわ。」


悠太は美咲の言葉にハッとし、自分が何をしているのかに気づいた。我を忘れて一方的に怒鳴りつける自分の姿を想像し、深い反省の念に駆られた。


その夜、悠太は美咲と言葉を交わせなかった。

美咲が気を遣って話しかけてくるが、悠太は目を合わせることに恐怖を覚えていたのだ。

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