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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第11章:人類発祥の地・アフリカ【2029年11月20日】
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第99話:パラダイムシフト

挿絵(By みてみん)


「皆様の直面する課題に対して、日本国政府として、その解決策を提示いたします」

 風間首相の言葉に、議場がざわめく。


「解決案……ですか。 ()()()()()()()()()()()?」

 各国の代表を気持ちを代弁するかのように、エチオピアの首相が口を開く。


 当然だろう。参加国55カ国から挙げられた課題は、細かいものも含めれば優に100を超える。

 更に、問題がそれぞれ複雑に絡まり合っているので、全体像を把握するのさえ困難な状況だ。


「最大の課題の一つである、()()()()()です」


 ”水資源”と聞いて、タメル首相の顔色が変わる。

 エジプトを含めた他国と係争中の、ナイル上流の”大エチオピアルネッサンスダム”について触れられると思ったのだろう。


 彼はすかさず、エジプト大統領の顔を睨みつける。

 ラシード大統領は、涼しい顔で視線を返す。


 タメル首相は感情を抑えるかるように、努めて冷静な口調を装う。

「それは果たして、このアフリカ連合会議の場で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 相手が日本国の首相である以上、無碍(むげ)な態度は取れない。が、言外に、発言を控えるように圧力をかけているのは明白だ。


 もし、エチオピアとエジプトを中心に係争を続けているこの案件を取り上げれば、エチオピア陣営と、エジプト陣営にアフリカが真っ二つに別れて対立する。となると、会議自体が物別れになるだろう。


「はい。この場をおいてより、相応しい場はないと考えます」

 そう言い切る風間首相に対し、タメル首相は苛立ちを隠さずに言う。


「分かりました。では、それが国際問題に発展しないことを祈るばかりです」

 ルネサンスダム建設にはアフリカ各国に影響力持つ中国も深く関わっていると、堀田さんが言っていた。


「そのご懸念が杞憂に終わることを、この場でお約束します」

 そう言って、風間首相は画面の向こうで微笑む。


 ――わたしだったら、震えあがって何もしゃべれなくなるところだ……。


 そうして、風間首相のプレゼンは始まった。

「まず、日本国政府は、今後の10年の国家成長戦略として、3つの戦略を掲げる予定です。一つはメタンハイドレートの採掘・運用、二つ目は海洋生物資源開発、そして三つ目が”ナノチューブの実用化”です。特に、この三つ目の重要なのです」


 ――ここまでは首相官邸で聞いた内容だった。


 けど、そこから暫く続いたプレゼンは、正直、わたしにはほとんど理解できなかった。

 ”フッ素ナノチューブがどうこう……”だの、”塩分分離技術が何たら……”だの、専門的な話が、わたしの脳を素通りしていく。


「ナノチューブが、産業としてのポテンシャルが大きいのは理解しています。しかし、それが、今、私達の直面する水資源の問題にどう結びつくのですか?」

 焦れたように、タメル首相が訊く。


「新開発のフッ素ナノチューブの実用化により、”()()()()()()()()()()()”が実現したとしたら、いかがですか?」


 ――()()()()()()()()()()()……?


 思いもよらないこの用語に、会場がざわめき始める。


 タメル首相が訊ねる。

「超高速というと、どれくらいの速度なのですか?」


 タメル首相の問いに、今度は橘環境庁長官が答える。

「今回のイノベーションに携わった、東大をはじめとする連合研究チームによれば、フッ素ナノチューブを用いることで、今までの技術の()()()()()の速度での、海水の淡水化が可能です」


「よ、4500倍だって!? 4.5倍ではなくて?」

 会場から次々に声が上がる。桁が違いすぎて、誰もが聞き間違いだと思ったのだろう。


「ええ。だからこそ、画期的なイノベーションなのです。髪の毛の10万分の1の極小ナノチューブですが、そのインパクトは計り知れないほど絶大です」


 橘長官の答えに、ある沿岸国の環境大臣が訊ねる。

「も、もしそれが可能なら、一体、どれくらいの水を確保できるんだ?」


 ――40の沿岸国それぞれに設備を建設すればの前提にはなりますが……と前置きした上で、橘長官は言い放った。


「この新技術の導入により、アフリカ全体で年5400億トン、つまりナイル川まるごとの年間総水量の840億トンの5倍以上の水量が確保可能です」


 会場に爆発的な反応が起きた。

 それも当然だろう。なんせ、古来エジプト文明の時代から数千年間にわたって、各国が奪い合ってきた、ナイル川の5倍もの真水が手に入るというのだ。


 更に、55カ国中、40を占める沿岸国にそれだけの量の水が供給されれば、内陸国に対しても、今までより格段に多く河川の水を分配できる。まさに、この場にいる全ての国に影響する解決案だった。


「そ、それなら飲料水や農業廃水だけでなく、下水さえも賄えるぞ!」

 誰もが興奮を抑えきれず、陪席する自国の大臣や閣僚と個別に話し出しめる。


 議長であるタメル首相も、放心したかのようにその様子を見つめていた。


 ……が、暫くして、我に返ったように口を開く。


「認めましょう。確かに、もしこれが実現できれば、我々の水資源問題は一気に改善されるでしょう。”リープフロッグ”どころか、まさに”パラダイムシフト”と言ってもいい変化だ。……ですが、その技術の見返りとして、日本は何を求めるのですか?」


 この発言に、各国の首脳が一斉に風間首相に注目した。


 ――確かに、どんなに素晴らしい技術があっても、支払えないほどの対価であれば意味はない。


「淡水化技術自体は、日本が無償で提供します」

 風間首相が断言する。


 ――え? 無償!?


「ただし、当然ながら、淡水化プラントの建設には、莫大なお金がかかります。ですから、日米欧を中心とした企業連合によるプロジェクトファイナンスにより調達・運営する形を取りたいと考えています」


 その発言に、再び議場がどよめいた。


「それは、結局、日米欧による新たな植民地支配を生むのではないか?いわば、淡水化プラントの運営権を人質する形での……」

 今やアフリカ最大のGDPを誇る、ナイジェリアのソバンデ大統領が、忖度(そんたく)なしに問う。


「淡水化プラントの運営権自体は、いずれアフリカ各国に譲渡予定です」

 橘大臣が、平然と答える。


 その答えに、彼はむしろ怪訝そうな表情を浮かべる。

「そ、それは有難いが……。では、どうやって、その費用を支払えばいいんだ?債務の罠に嵌まっては元も子もないではないか」


 実際に借金が返済できずに、結局施設の運営権を奪われるという、いわゆる”債務の罠”の存在は広く知られている。


「そこが今回の提案の、キーポイントとなります」

 ここで、檀上の創さんが口を開いた。


「少なくても日本においては、2030年以降、それぞれの国で、”外国からの移民が、消費した水の金額分”を、そのまま返済金額から差し引く、という形を取らせていただきます」


 その言葉の意図が十分に理解できず、会場全員が創さんに着目する中、彼は続けた。


「つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という仕組みです」


挿絵(By みてみん)

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