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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第11章:人類発祥の地・アフリカ【2029年11月20日】
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第96話:アディスアベバ

挿絵(By みてみん)


 2029年11月24日 エチオピア・アディスアベバ


「これがエチオピアかぁ……」

 眼下に広がる、陽光を浴びた首都、アディスアベバは美しかった。


 決して、整った街並みとは言えない。

 200メートルを超える現代的なビルがそびえたつ一方で、スラムのような地域も共存している。

 だけど、それこそがアフリカの躍動する魅力を体現している気がした。


「星、大丈夫? ちゃんと寝てる?」

 わたしは隣の星に声をかける。


 前日、カイロから3時間半かけて飛行機で飛んできたわたし達は、アディスアベバホテルで一泊し、今日の会議本番に臨むという日程になっていた。


「うーん、正直あんまり」

 星は目を擦りつつ、笑いながら答える。


 実際、わたしもそうだ。

 ここ数日間、堀田さんと梨沙さんがほとんど付きっ切りで、アフリカの抱える課題や、国同士の関係性なんかを叩きこんでくれていたからだ。


 貧困、紛争、気候変動、インフラ、医療、教育……。

 会議に参加している55の国と地域は、それぞれに課題を抱えている。

 その中には、まさにナイルの水源問題のように、国家間で利害関係が錯綜しているケースも多い。


「もちろん、アフリカは課題が山積みだ。でも新興国市場として捉えたとき、デジタルマネーやドローン輸送、遠隔診療など、むしろ日本よりも進んでいる面も多いんだ」

 堀田さんは力説する。


技術的飛躍(リープフロッグ)っていうんだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、先進国を追い抜いたりすることもあるんだ。例えば、かつて中国が固定電話を飛び越えて、一気にスマホ経済に移行したようにね」


「でもなんで、リープフロッグ(そんなこと)が起こるんですか? 先進国が開発したなら、先進国がまず利用しようってなりそうなのに」


 梨沙さんが言う。

時代遅れの遺産(レガシー)ってもんがあるからな。例えば、モバイルマネーの方が圧倒的に楽だと分かっていても、一旦クレジットカードが普及してしまうと、既得権益が発生して、逆に普及を阻んだりすることがある。自動運転なんかもそうさ。日本にはこんな話、至るところに転がっている」


「でも、いいサービスなら、それこそ政治家が推し進めればいいのに」

「一番の問題は、政治家連中の頭が更新(アップデート)されていないってことなのさ。うちの親父も含めてな。ま、そんな中で、風間さんはよくやってるよ」


 いくら家族ぐるみの付き合いだとは言え、首相を”さん付け”する元秘書官は梨沙さんくらいだろう。


 堀田さんが同調する。

「日本の政治家連中にはほんとに辟易するよ。現場も知らずに、上澄みの情報だけ掬っているから、本当に必要な人達に支援が届かない」


「お、分かってんじゃないか。一杯やるか?」

 楽しそうにそう言って、梨沙さんがビールを手渡す。


「ちょっと真面目にやってくださいよ。本番までに教えることなんて、山ほどあるですから」

 堀田さんが眉根を寄せる。


 ……そんなこんなで、レクチャーは昨晩の12時近くまで続いていた。

 その後、ホテルの部屋に戻ってシャワーを浴びて、復習をしていたら明け方近くなってしまっていた。


「人生でこんなに真剣に勉強したのって、始めてかも」

 わたしは、星に言う。


 大学は剣道での推薦入学だったし、そもそも勉強が大嫌いだった。

 だって、それが何の役に立つのかさえ分からなかったから。


 でもこうして世界が抱える課題と、そしてそこで生きる人たちを眼前にしたとき、”学び”というのは全く違った意味合いを持ち始めた。


「ああ、”大切なひとたちの生存に直結する道具”として捉えられたとき、”学び”は初めて自分事になるんだと思うよ」


 星の言葉にわたしは深く頷く。

 今から数時間後。まさにそのために、わたしたちはアフリカ首脳陣の前に立つ。


挿絵(By みてみん)

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