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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第11章:人類発祥の地・アフリカ【2029年11月20日】
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第94話:大統領宮殿

挿絵(By みてみん)


「共に参加しませんか? アフリカ連合の首脳会議に」

 創さんが、堀田さんに問いかける。


「も、もちろん、行けるものならぜひ行きたいですけど……。でも僕なんか、大使館じゃ、新米中の新米なのに……」

 そう言って、周りの大使館員たちの表情を窺う。


 確かに、列席する大使館員の中では、20代後半の彼がダントツに若い。60歳手前の御堂大使から見たら、息子のような歳だろう。


「わたしは、まだ早いと思いますね。大使館に入って数年の彼が参加したところで、何らかの貢献ができるとは思えません」

 やせ型で神経質そうな50代の副大使が、プロジェクターの前に立ちすくむ堀田さんを睨む。


「そうですね……」

 そう思案気に言って、御堂大使は席を立つ。そのまま、窓際に飾られている三枚の旗の傍まで歩いていく。


「この旗はご存じですか?」

日本国旗とエジプト国旗とともに掲げられている緑色の旗を指しながら、御堂大使がわたしたちに問いかけた。


――緑色の生地の中心にアフリカ大陸が描かれ、それを囲うようにして数十もの星が描かれている。


「もちろんです。アフリカ連合の旗でしょう」

何を当たり前のことを……とでも言うかのように、副大使が鼻を鳴らす。


「では、この55の星の意味は?」

「アフリカ連合に加盟する、国と地域の数です」

今度は堀田さんが回答する。


――やたら星が多いと思ったら、そんな意味があるんだ。


「欧州列強の植民地支配から、初めて独立したのはこのエジプトです。1952年のエジプト革命によってね。そして、2011年に南スーダンが独立し、現在のアフリカ55の独立国と地域が成立するまで、約60年の歳月がかかっています。人生の大半をアフリカで過ごした私にとって、それは一つの奇跡のようなものです」


そう言って、御堂大使は堀田さんの肩に手を置いた。


「貢献などできなくてもよいのです。50を超える、歴史も立場も違う国々の首脳が、どう未来を捉え、何を話すのか。何より、言葉には出ないその葛藤と覚悟を感じ取ることが、いつか必ず君の財産になります。これからの未来を切り拓くのは、私達でなく、あなたの世代なのですから」


 そうして、御堂大使はわたし達に、さっきよりも深々と頭を下げる。

「直情的なところはありますが、医療の腕と情熱は確かです。堀田君をぜひ、よろしくお願いします」


 わたしはすっかり恐縮して、おもわず同じくらい深々とお辞儀をする。


 御堂大使は顔を上げると、真剣な表情をわたしたちに向ける。

「ただ、”アフリカ連合会議が一筋縄ではいかない”、という点においては、大使館の皆さんの意見に賛成です。利害関係が一致しない限り、彼らが一枚岩になるとは思えません」


 ――そして、と御堂大使は続ける。

「今回、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ***********


「こ、これが、大統領の官邸なんですか!?」

 想像していた建物とあまりに違いすぎて、わたしは、思わず御堂大使に訊ねる。


 それは、官邸というには、あまりに壮麗すぎた。

「はい。この、イッティハーディーヤ宮殿には、新古典主義とアールヌーボー様式、そしてイスラム建築が融合しています。まさに”アフリカの玄関口”というのにふさわしいでしょう」


「”イッティハーディーヤ”という言葉そのものが、”連合”という意味なんだ」

 そう堀田さんが教えてくる。


 ――す、すごい……。

 宮殿の頂上には白亜に輝くドームが、青空に光を放っている。宮殿に近づくにつれ、壁のモザイクがキラキラと陽光に反射する。


「お待ちしておりました」

 鏡のように磨かれた大理石の廊下を通り、歴代の指導者らしき人々の肖像画を見ながら歩みを進めると、やがて巨大な会議室のような場所に案内される。


 重厚な扉が開かれ、テーブルの方に案内されると、大統領と思わしき人物を中心に、二十名を超える人たちが一斉に集まってくる。


「It's an honor to meet you, Professor Nanami(お会いできて光栄です、七海教授)」

 軍部出身といわれている現大統領は、意外にもにこやかだった。


「I’m Rashid Faruq(ラシード・ファラークと申します)」

そう言って創さんに手を差し伸べる。


 ――良かった。英語だ。

 夢華やアレク達との濃密な時間を通して、英語であれば、下手なりに何とかやりとりはできるようになっている。


 これがアラビア語だったら、完全にお手上げだ。


「この場にいるようなエリートたちは、みんな英語を話せるから問題ないよ。市内だとまた別だけどね」

そう、梨沙さんが言う。


 創さんも英語で受け答えしつつ、ところどころ自己紹介にアラビア語らしき言語を交え、笑いを取っている。わたしも、梨沙さんと星と一緒に、英語で何とかやり取りする。


 十名くらいと挨拶したところだろうか。

 中肉中背の男性がわたしたちの前に来た時、星がわたしと梨沙さんに耳打ちした。

「例の軍人です。ピラミッドで、僕たちを見張っていた内の一人の」


 その男はにやりと笑い、右手を差し出す。

「我が国の悠久の歴史は、お楽しみいただけましたかな? ()()()()()()()()()()()()()、ご見学頂いていたようですが……」


 ――やはり、ピラミッドで鳩型の脳波ドローンを撃墜したのは、彼らに違いない。


「ええ、存分に。紅い(RED)(SEA)の向こうのご友人にもよろしくお伝えください」

 そう言って、梨沙さんは相手が顔をしかめるほど強く、差し出された手を握り返す。


 エジプトから見た”紅海の向こうの国”と言えば、一つしかない。

 中東の雄、サウジアラビアだ。


 やはり、エジプトと彼の国は、政治的にかなり高いレベルで結びついているようだ。

 梨沙さんとその男の間に、外交の火花が、バチッと飛び散るのが見えた気がした。


挿絵(By みてみん)

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