第91話:二重護衛
「ピラミッドからわたしたちを監視してるって、どういうことですか? まさか、ピラミッドの中に、秘密の監視部屋があるとか……」
梨沙さんは楽しそうに笑う。
「アイディアとしては面白いな。ただ、ピラミッド内部は今なお完全には調査が終わってないんだ。そんな部屋を勝手に作ったら、さすがにエジプトの古代遺跡省が激怒するよ]
――”古代遺跡省”なんて省庁があるなんて……。さすが人類最古の文明の一つ、エジプト文明が生まれた国だ。
「ピラミッドの外壁には、盗掘や不法侵入なんかを防止するために、監視カメラが至るところに仕掛けられているんだ。それを使えば、周辺の監視なんて一発だよ」
「でも、その映像を見られるとなると、相当特別な人達なんじゃ……?」
星の問いに、梨沙さんが頷く。
「ああ、普通は見られない。だから逆に言えば、わたし達を見張っているヤツらは、それだけの地位にあるってわけだろう」
涼しい顔で、サラっという梨沙さん。
元自衛官という職業柄、こういったことに慣れているんだろうか?
「ど、どのタイミングで、監視されていることに気づいたんですか?」
「空港からだよ」
そう言って彼女は、意味あり気にわたしたちを見つめ返す。
「今や世界から注目を浴びているリンと星の護衛が、あたしだけかと思ってたのか?」
「え!?じゃ、わたし達を二重で護衛してたってわけですか?」
「ああ、空港からずっと、別動隊にあたし達のことを尾行してもらっていたんだ。内調と連携してね。シュマッグの一団を発見したのも、その別動隊だ」
――内閣調査室という言葉には聞き覚えがある。
確か、以前説明してもらった、日本版CIAってやつだ。
つまり、彼らが、わたし達の尾行者を、二重に見張っていたということか。
「でも、こんなただっぴろい砂漠の中で、どうやって相手を監視するんですか?簡単にバレちゃう気が……」
「リンもよく知っているやり方だよ」
そう言って、梨沙さんはわたしにスマホを見せてくれる。
それは、上空からのリアルタイムの録画映像だった。
ピラミッドから数百メートル離れた場所で、ラクダに乗っているわたしたちが点のように映っている。
――まるで、鳥からの目線のような……。
そこで、わたしはようやく気付く。
「え、まさか、ドローンで!?」
思わず頭上を見上げる。
わたしは、おじいちゃんたちとの山籠もり修行での出来事を思い出す。
何者かが上空に鷹型ドローンを飛ばし、わたし達を監視していたところを、アレクが弓で撃墜したのだ。
「この改良版の鳩型の脳波ドローンを、二重護衛中の別動隊が操作しているんだ」
「え、じゃあ、わたし達を見張っている人たちも、この映像に映っているんですか?」
「ああ。それらしき一団は映ってはいた。ただ、みんな頭布をかぶっていたから、上空からの映像じゃ顔までは識別できないけどな」
「それにしても、鳥の視点って、こんな感じなんですね……」
空から俯瞰する砂漠は新鮮で、思わずドローンからの映像に見入ってしまう。
その鳩型ドローンが、ピラミッドの反対側まで飛んで行ったとき。
不意に、”ざざっ”という雑音が鳴り、映像がぷつんと途切れた。
「ちっ、やられたか……」
梨沙さんが、舌打ちする。
「逆監視用の鳩型ドローンが、何らかの方法で撃墜、もしくは捕獲されたようだ」
――え?
わたしは驚愕する。
山籠もりのとき夢華とアレクがやったことを、今度は逆に相手からやられた形だ。
ただ、あれには夢華とアレクの、相当高度な連携と技術があってこそだった。
わたしたちを見張っている相手もまた、かなりの腕前なのかもしれない。
梨沙さんは、緊張で固くなったわたしの肩を叩くと、妙に断定的な口調で言った。
「安心していいよ。あたしの推測が正しければ、向うに危害を加えるつもりはないはずだ」
――ん?
梨沙さんには、既に相手の目星がついているのだろうか……。
問い返そうとしたわたしに、梨沙さんが言う。
「さすがに喉が渇いてきたな。ホテルに戻って一杯やりながら話そうか」




