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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第11章:人類発祥の地・アフリカ【2029年11月20日】
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第90話:金糸と銀糸

挿絵(By みてみん)


「気づいてる? さっきからずっと、誰かに見張られてることに」


 ――え!?

 梨沙さんの言葉は、完全に寝耳に水だった。


「もしかして、頭布(ギトラ)を着用した三人組……いや後方の五人を合わせると八人組ですか?」

 星が逆に質問する。


「へぇ」

 梨沙さんが感心したような表情を浮かべる。


 ギトラ……って?

 わたしは慌ててサラに尋ねる。


「アラブの男性が良くかぶっている、日差しや砂を防ぐための頭布のことだよ」


 これだけの強烈な日差しだ。

 確かに、辺りを見渡すと、至るところにそれっぽい頭布をかぶっている男性がいる。


「でも同じような衣装の人なんてたくさんいるのに、どうして気づいたんだ?」

 わたしの疑問を梨沙さんが代弁してくれる。


「今日すれ違った人の中で、金糸と銀糸の刺繍の施されたギトラを着た人がいたんです。サングラスをしていたから顔を分からなかったけど、その精緻さからして、サウジの相当地位の高い人だと思う」


「え、出身国まで分かるの?」

「以前、お父さんと行った中東の地質調査で、現地の人に見分け方を教えてもらったんだ。サウジとエジプトでは、微妙にデザインが異なっていて、デザインが精緻になればなるほど、違いは分かり易すくなるって」


 ――正直、わたしにはみんなほとんど一緒に見える。

 でもそれはたぶん、日本の女子高生がこだわっている、学校間の制服の明らかな違いが、外国人にとっては、ほんの些細な違いにしか見えないようなものなんだろう。


「なるほどね……」

 梨沙さんが、どこか愉快そうに訊ねる。

「同行していた、残り二人の特徴も分かるか?」


「その偉い人にピッタリ寄り添っていたのは、まさにお付き役っていう感じの二十歳過ぎの若い男性でした。ただ、先導してた人がちょっと変わっていて……。シュマッグの様式からしてエジプト人だと思います。おそらく、軍務経験がある……」


 ――以前、錬司さんもカミラとすれ違ったとき、傭兵経験を一発で気づいたという。


 ただ、星もそれが見抜けるなんて……。

 もしかして、気づけないわたしが鈍すぎるのだろうか。


 梨沙さんも驚いた様子だ。

「じゃ、その後ろを、少し距離を置いて歩いてた一団のことも思い出せるか?」


「あ、はい。5名の一団ですよね。医療スタッフっぽい人が中心でしたが、布に覆われた、大きな籠のようなものを運んでいたのが印象的でした。前の三人組と、つかず離れずという感じで着いてきていました」


 梨沙さんは思わず手を叩く。

「すごいな、そこまで観察してたのか。さすが、あの七海教授の息子さんだ」


 そう言えば以前、星はわたしに言っていた。


「言葉の分からない海外では、その人がどんな人かを見極められるかが、命綱になるんだ」と。

 幼いころから、創さんに連れられて、世界中の地質調査の現場を周ってきたからこそのセリフだ。


 梨沙さんは言う。

「私たちを見張っていたのはその一団で間違いないと思う。あたしが敢えてラクダの交渉を長引かせているときも、ずっと視線を感じていたから」


 ――そ、そうなんだ。

 単に、ぼったくられるのが嫌で値切り交渉をしているのかと思ってた……。


「え……、じゃあ今も見張られているってことですか? 一体、どこから?」

 さすがに、遮蔽物(しゃへいぶつ)も何もない広大な砂漠で、気づかれないように尾行するのは不可能に思える。それなら、鈍いわたしも気づくはずだ。


「あそこに、恰好の撮影場所があるだろ?」

 梨沙さんは顎でくいっと前方を指す。


 視線の先にあるのは、数百メートル先のピラミッドだけだ。

「ま、まさかあのピラミッドから、わたし達を監視しているんですか?」


挿絵(By みてみん)

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