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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第11章:人類発祥の地・アフリカ【2029年11月20日】
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第89話:ピラミッド

挿絵(By みてみん)


 2029年11月20日 エジプト・カイロ


「はぁぁえぇぇ」

 人は、あまりに圧倒的な光景を目の当たりにすると、意味の分からない声が漏れるらしい。


 わたしは、人類史上最大の墓・ギザのプラミッドを前に立ち尽くしていた。


 おじいちゃんの四十九日を終え、お墓にお花を添えた後、わたしは星、そして首相第三秘書の梨沙さんとともにエジプトに旅立った。創さんは一週間前ほどに現地入りして、現地の政治家や学者と打合せに明け暮れているらしい。


 ――それにしても、このクフ王のピラミッ(お墓)ド、おじいちゃんのお墓の何百倍あるんだろう。


 梨沙さんが、近くを歩いていたガイドに尋ね、解説してくれる。

「高さ138メートル、基底部の面積は5.3万平方メートルだってさ。230万個の石のブロックが使われているらしい」

 

 トラックもショベルカーもない5000年前に、これだけの大工事を行うために、どれだけの人力が割かれたんだろう。


「自分の死後にこんなもの作るなんて、馬鹿げてんなって思ってたけど……。後世にこんだけ観光客を引き寄せて金を生んでくれるんだったら、一周回って偉業だったのかもな」


 わたしは、率直すぎる感想をつぶやく梨沙さんの横顔を見る。


 170cmを超える長身で、整った顔立ちのため、一見、モデルのようにも見える。けど、元陸上自衛官だけあって、その肉体は見事に引き締まっている。


「なんで、首相の秘書になんてなったんですか?」

 前に会ったとき、あまりに前職と首相秘書(今の仕事)のギャップが激しすぎて、わたしは思わず聞いてしまった。


 梨沙さんは笑いながら言う。

「やっぱそう思うよな。どう見てもスーツが似合わないって……」


「あ、いやそんなわけじゃなくて」

 わたしは慌てて手をぶんぶん振る。


「うちは、代々政治家の家系でね。長男も次男も、ついでに長女まで東大出て政治家かその妻になるっていう、変態な家庭だったんだ。だから官僚一家の風間家とも付き合いがあった」


 ――へ、変態って……。

 わたしは思わず吹き出してしまう。


「……で、勉強嫌いで浮きまくってたあたしだけ、ちょっと反抗して陸自に入ったんだ。でも、完全な男社会でさ、災害救助もできる特殊作戦群(SFGp)に入りたかったのに、女は無理って言われて腐っていたところを、風間さんに引っ張られたってわけ」


「え、SFGpって何?」

 とわたしはサラに訊く。


「陸上自衛隊の中の、主にテロ対策や人質救出などの特殊任務を遂行するための部隊だよ。そのミッションの中には、災害時の救助活動も含まれるんだ。まさに、東日本大震災のようなね」


 サラの答えを聞いた梨沙さんが、感心したように言う。

「へぇー、最近のカスタマイズAIって、どんどん賢くなってんだね」


「ま、そんなわけで、もともと秘書なんて柄じゃないから、気軽に話しかけてくれ。あたしのことは梨沙って呼んでくれればいいから」

「いや、さすがにさすがに10歳も年上なのに呼び捨てにするのは……」


「じゃ、梨沙さんでいいや。あたしからは、リンって呼んでもいいかな?」

「はい、もちろん!」


 おじいちゃんのことや、夢華たちの帰国で、喪失感が拭えない中で、なんだかもう一人お姉ちゃんができたようで嬉しかった。


 ***********


「リン、星。ちょっとラクダで砂漠を散歩してみないか?」

「も、もちろん?」

 わたし達が全力で頷くと、梨沙さんが早速、そこら中にいるラクダの主らしき人達と交渉を始める。


「観光客と見ると、すぐぼったくってくるからな」

 梨沙さんはそう笑って、まるでケンカでしているかのような勢いで、飼い主(オーナー)と交渉を始める。


 一人目との交渉を早々に切り上げ、二人目に行き、さらに三人目に移ったと思ったら、再び一人目に戻る。そんなやりとりを繰り返した後、三匹のラクダを連れたラクダの飼い主を連れてきた。


「当初の値段の2割程度かな。ま、もっと下げられたかもしれないけど、この暑さだしな」

 聞けば、仕事ではなく、バックパッカーとして海外放浪をしていたときに学んだ交渉術らしい。確かに、首相秘書として値引き交渉に当たることはあんまりないだろう。


 飼い主の指導(ガイド)により、こぶとこぶの間の鞍に座ると、”ぐわんっ”といった感じで、突如ラクダが立ち上がる。想像以上の高さだ。わたしは振り落とされまいと、手綱をしっかりと握る。


 ――”砂漠でラクダに乗る”という、漫画でしか見たことないベタな夢を、こんな形で実現できるとは思わなかった。


 30分ほど、ピラミッドの周りの砂漠を、ぐるっと廻ってみる。

 熱砂に(けむ)る、遠いアングルからのピラミッドもまた、特別な存在感がある。


 何にも知らない昔の旅人が、広大な砂漠を抜けた先に、突如ピラミッドを目にしたとき、どんな気持ちになったのだろうかと、ふと思う。


 梨沙さんは、ピラミッドの方角を凝視しながら言う。

 「5000年前、こんな巨大建築物はあり得なかったからな。王本人だって、墓の全体像は見ようがなかったはずだ。それこそ全貌が見えていたのは、空を飛ぶ鳥たちだけだっただろうよ」


 よく見ると、ピラミッドの上空には多くの禿鷹や鷲などが飛翔している。日本がまだ縄文時代だった5000年前(ころ)から、この景色が変わっていないと思うと、不思議な感慨に囚われる。

 

「さて、そろそろ、戻るか」

 そう声を上げて、先導していた梨沙さんがラクダを反転させ、後ろをついてきたわたしと星の方に近づいてくる。


  梨沙さんのラクダと、わたし達のラクダが、危うく交錯するくらいの距離まで来た時、梨沙さん(彼女)は声を潜めて言った。


「気づいてる? さっきからずっと、誰かに見張られてることに」


挿絵(By みてみん)

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