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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第10章:七つの鍵【2029年9月1日】
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第84話:首相官邸

挿絵(By みてみん)


「わたしは、みんなと共に、この世界を救いたい。例え、この人生を賭してでも」


 その言葉を聞いた十萌さんは、わたしと星を同時に抱きしめた。

「ありがとう、リンちゃん、星君」


 そのとき、十萌さんのスマホが鳴った。

 わたし達から身を離して応答をすると、すぐに何かの指示を出し始める。


 電話を切ると、十萌さんは言う。

「さ、行くわよ」


「え、どこに?」

「首相官邸。もう、お迎えの公用車くるまが着いているから」


「は?……え!?」


 **********


 1時間後。

 急展開についていけないまま、私が乗った黒塗りの公用車(センチュリー)は、首相官邸の門をくぐっていた。


 わたしの星は、相変わらずの落ち着いている。


「星、緊張しないの?首相と直接会うんだよ」

「お父さんと一緒にこの間も会ったから、まあそんなには」


 まるで親戚のおじさんと会うようなノリで答えてくる。

 相変わらず、羨ましいくらいのコミュ力だ。


「カイさんと創さんは一足先に会議を始めているわ。だから、安心して」

 十萌さんはそう言うけれど、一体、何をどう安心していいのか、全く分からない。


 係の人に案内され、静かに大会議室のドアを開けると、ちょうど創さんがプレゼンをしているところだった。


 なるべく目立たないように、こっそりと端っこの席に座ろうとする。

 ……が、突然、前方のスクリーンに注目していたはずの、この部屋の主が声をかけてきた。


「おっ、深山リンさんだね」

 明るいグレーのスーツに、僅かに銀色が混じった長髪。

 画面越しでしか見たことのない、風間首相本人だった。


 その隣には、船上会議の際に発言していた橘環境庁長官が座っている。

 彼はわたしに目線を合わせると、軽く頭を下げてくれた。


 ただ、その他の、内閣の閣僚と思しき十数人は、いかにも(いぶか)し気な視線を向けてくる。更に、その後ろには各数名ずつ、おそらくは官僚だが秘書だかが控えている。


 大半が60代の男性で、数人いる女性も50代半ばくらいだ。


 全体的に、”圧”がものすごい。口には出さないものの、目が明らかにこう言っている。

『何だよ、この遅刻してきた小娘は……』と。


 思わず怯みそうになり、十萌さんの方を見る。

 十萌さんは、臆することなく、明瞭な口調でわたしを紹介する。


「若干19歳にして、今回の脳波実験で傑出した結果を出し、三式島ではテロも未然に防いだ深山リンさんです。以後、お見知りおきを」


 会議室に軽いざわめきが起こる。

「おおっ、彼女があの……」


 ――いや、そんな期待値上げないでよ。

 わたしは穴があったら入りたい心境になってくる。


 そんな私の気持ちを察してくれたのか、創さんが軽い調子で言う。

「深山家と七海家はお隣なんですよ。だからリンさんは、うちの星の幼馴染でもあるんです。あの、『タッチ』みたいにね」


 場がちょっとだけ和む。

『タッチ』は、1980年代の半ばにアニメ放映された、幼馴染同士の青春の心の機微を描いた名作野球漫画だ。

 40年前以上前の作品だから、もしかして厳めしい顔をしている閣僚陣にも愛読していた人がいるのかもしれない。


 ――では。

 と、創さんが真剣な表情に戻る。


「先ほどの話題に戻ります」

 そういって、スクリーンに赤色のポインターを投射する。


 画面(スクリーン)に映っているのは、立体的な地球の地図だった。

 PCを操作しているのはカイだった。


「これは、2029年8月現在の地球の3D地図です。ご覧の通り、北半球の凍土は北極、アラスカ、カナダ、シベリア、スカンジナビア半島、チベット高原などです。南半球は、南極に近いアンデス山脈、ニュージーランドなど、限定的な地域となっています」


 そこまで説明すると、カイの方を見る。

「太陽内部での対流運動と磁場の変化により、太陽の黒点が減少します。それによって、凍土がどう変化するのかについて、カイ・ローゼンバーグ氏から説明いただきます」


 カイがキーボードを叩きながら、発言する。

「まずは、地球シミュレーターによる分析結果をご覧ください」


 2030年の半ばから、徐々に蒼白色の凍土が増えていき、2040年には地球上の半分以上が染まっていく。


 カイがその原理を説明してくれている。

 ……けど、相変わらずさっぱり良く分からない。


 あとで、サラに訊いてみよう。


「ここまでは、既に船上会議のVTRでご覧になった内容かと思います。それを踏まえて、本題に入ります。では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そういうと、画面がズームアップされていく。


「赤道付近のエリアは、凍土化を免れる見込みです。つまりここが人類にとって、残された居住可能な陸地ということです」

そう、カイが説明する。


「”赤道付近”というのは、具体的にどれくらいの範囲を指すのですか?」


橘長官の問いに対し、

「――地軸や日照条件、現在の自然環境等にもよりまばらになる見込みですが……」

そう前置きした上で、カイが答える。


「概ね赤道を中心に南北2000から2500km以内であれば、凍土化は避けられる可能性が高い……と言えるでしょう」


橘長官は、目の前に置かれた地球儀を見つめながら呟いた。

「そうなると、非凍土化エリアの内、最大面積を占めるのはアフリカ大陸ですね」


地球儀(それ)を、さらにくるっと一回転させる。

「あとは、中東、インド、東南アジア、中国、オーストラリア、中南米、南米は、それぞれ陸地の一部のみ辛うじて凍土化を免れる……といったところでしょうか」


 ――そして、と続ける。


「そして、日本はそこにさえ入っていない。つまり、日本のほぼ全土が2040年までに凍土化する――。そういうことですね?」


挿絵(By みてみん)

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