第79話:内通者
「本堂入口の後方は制圧したわ」
VRスカウター越しに、本堂の中で応戦を続ける、夢華、エリー、アレクに伝える。
「わたしと蝙蝠で、いつでも背後から急襲可能よ」
「は?……蝙蝠って!?」
怪訝そうに問い返す夢華に、急いでソジュンがカミラの蝙蝠をハックした流れを伝える。
アレクが軽く息を吐く。
「正直助かるよ。こっちは銃弾に晒されて満身創痍だからね。このままでは、いずれ動けなくなるところだった」
「本堂の傭兵隊の位置を教えて」
わたしの問いに夢華が答える。
「歩兵は、装甲車の右の影に2名、左には3名よ。それに、隊長が、装甲車の上部ハッチから上体を出す形で、中距離射撃と作戦指示を同時に行っている」
「他の隊員はともかく、隊長だけには気を付けてくれ。なんせ、私の矢を全て撃ち落とす程の腕前だ」
――アレクの矢を、銃で撃ち落す!?
そんなことができるとすれば、それこそ達人級だ。
夢華も言う。
「最悪の展開は、装甲車内に立て籠もられるパターンよ。一度ハッチが閉じられたら、外部から抉じ開けるのはまず無理だから」
「そこは、僕と悠馬に任せて。ハッチが閉じるより早く、死角から隊長を襲撃してみせる」
ソジュンが断言する。
――さすがの敵も、空からの襲撃は想定していないだろう。
夢華が全員に指示を出す。
「まずは、リンと蝙蝠で、右の2名と隊長に後方から奇襲をかけて。敵に隙が生まれた瞬間を狙って、私、エリー、アレクが、前方から一気に攻め込むわ。――突入は、今から30秒後」
全員のVRスカウターにカウントダウンが始まる。
心臓がドクンと脈打つ。
画面に"0"の文字が表示された瞬間。
わたしは蝙蝠とともに、敵の背後を急襲する。
蝙蝠とわたしの背後からの二連撃で、2名を戦闘不能に陥らせる。
残りの敵の意識が、後方の私たちに集中する。
「GO!」
刹那、前方の夢華、エリー、アレクの三人が、全力で敵に向かって疾駆する。
挟撃に気づき、銃を乱射する傭兵たち。
だが、夢華たちはジグザグに走り、相手に照準を絞らせない。
「いけぇぇぇぇぇぇぇ!」
ソジュンの蝙蝠が、空気を切り裂きがながら、装甲車から上半身を晒す隊長に向かって急降下する。
――しかし。
隊長の手には、既に大口径の銃が握られていた。
「まずい、散弾銃だ!!」
アレクが叫ぶ。
その声に反応したソジュンが、鋭角に飛行の軌道を変える。
同時に、隊長の散弾銃が火を噴いた。
広範囲に散らばった弾丸の一つが、蝙蝠を貫く。
次の瞬間、一人目の敵を倒した二刀流のエリーが、装甲車のハッチに向かって跳ぶ。
隊長は、ショットガンの銃口をエリ―に向ける。
――ヤバい、撃たれる!
が、なぜか銃声は響かない。
”ガキンッ!”
隊長は、エリーの二本の木刀を、散弾銃の砲身で受けとめた。
両手が塞がれた隊長の顔面に、今度は夢華の高速突きが襲う。
隊長はしかし、その突きを首をわずかに逸らして躱し切る。
すさまじい動体視力だ。
最後に詰めたのは、アレクだった。
弓矢の照準を、隊長の眉間に定めて言い放つ。
「チェックメイトだ」
少しの間の後、隊長は散弾銃を下に落とす。
"がらんっ”という金属音が、静けさを取り戻した本堂に響き渡る。
降伏の意だろう。
夢華が臨戦態勢を崩さないまま、隊長のフルフェイスのマスクを剥ぎ取った。
”からんっ”
さっきより少し軽い音を立てて、今度は、エリーの木刀が地に落ちた。
「え!? まさか……どうして貴方が!?」




