第78話:鉄槌
”バサバサッ!”
夜の雑木林に再び羽音が響く。
「まぁた梟か?」
銃口を向けつつ、見張りの一人がうんざりしたように言う。
”バキッ!”
次いで、枝の折れる枝が鳴り響く。
男たちの警戒が一気に高まる。
「見てこい。二人一組だ」
副長格だと思われる男が、残りの二人に指示を出す。
「こっちに来る」
ソジュンがVRスカウターの通信機能を使って言う。
羽音も、枝が折れる音も、ソジュンが操作する蝙蝠アバターがわざと立てたものだ。
男たちの銃から放たれる、赤色の照準器が蝙蝠に向けられた。
そこには、枯れ枝に逆さにぶら下がる蝙蝠アバターがいる。
「何だよ、カミラの蝙蝠か……」
そう言って、左の男が銃口を下げた瞬間。
死角となる木陰に隠れていたわたしが、そいつの後ろ首筋に向けて竹刀を一閃する。
――!!!
二人目が何か言葉を発する直前、わたしの竹刀がその腹部に突き刺さる。
――まずは二人。
意識の糸を絶たれ、ゆっくりと崩れ落ちる二人。
わたしと蝙蝠のアバターは、気配を消しながら慎重に歩みを勧め、副長格の死角の木陰に回り込む。
銃声が一発でも鳴ったら最後、本堂の傭兵隊に奇襲が気づかれてしまうだろう。
最後の一人――おそらくは隊長に次ぐ実力者――を無音でどう仕留めるか。
「僕と悠馬に任せて」
ソジュンがこともなげに言う。
「まず、僕たちが、蝙蝠を使ってあの副隊長の銃を無効化する。その瞬間に、リンが切りかかって気絶させてほしい」
「無効化って……。相手、相当な腕前よ」
「増幅器の力、よく見てて」
そう言うと、ソジュンと悠くんが集中モードに入る。
蝙蝠が空へと舞い上がる。
副隊長の注意を逸らすかのように、敢えてその視界入り、空中で何度も旋回する。
――すごい。
まるで夜空のキャンバスに文字を描くかのように、縦横無尽に飛び回っている。
よく見ると、本当に文字を書いているような……。
「F・U・C ――― ?」
さすがに異変に気付いたのか、副隊長は怪訝そうに空を見つめている。
空に、「K」の文字が描かれた瞬間。
蝙蝠が一気に急降下した。
闇夜を切り裂く雷光のような速度で、慌てて銃を構えようとするその腕に、鋭い爪を突き立てる。
銃が地面へ落ちる。
木陰から飛び出したわたしは、相手が振り向くよりも早く、後頭部に一撃を喰らわせる。
男が倒れ込む。
わたしは、振り返ってソジュンに訊ねる。
「今の、どうやったの?」
持ち主のカミラを遥かに超える操作速度だった。
「僕の脳波を、悠馬が増幅させてくれたんだ。彼の増幅者としての素質は超一流だよ」
――そういえば、火龍の舞が終わったときも、十萌さんがそんなことを言っていた気がする。
「本堂の傭兵はあと六人。夢華たちと挟撃すれば一網打尽にできるはず」
そう言って、ソジュンは中指を立てる。
「僕たちの絆を引き裂く内通者に、鉄槌を下してやる」




