第77話:夜の梟
――まさか、本堂が燃えている!?
わたしは思わず、駆け付けようとする。
……が、炎に照らされた3人の傭兵の姿が視界に入り、慌てて木陰に身を隠す。
「十萌さん、火の手の状況を教えて」
「本堂自体は燃えていないわ。侵入者を防ぐため、奴らが本堂入口の前の草を燃やしているだけ」
ひとまず胸をなでおろす。
けど、あの火がいつ本堂に飛び火するか分かったもんじゃない。
何せ、中には夢華やエリーたちがいるのだ。
「敵は、あと何人?」
十萌さんが、本堂に備え付けられた複数の監視カメラを見ながら答える。
「まず本堂内部には6人。彼らは入口に突っ込んだ装甲車の影から狙撃しているわ。夢華、アレク、エリーの3人が頑張って抵抗しているけど、いかんせん火力が違いすぎる。急がなければ、巨大アバターはいずれ奪取される」
――いくらあの3人とはいえ、近代兵器で武装した手練れの傭兵団を退けるのは難しいはずだ。
それに、チーム全体の指揮を執る”隊長”と呼ばれる男の実力は、まだ底が見えない。
「外は?」
「あの火の防壁の前の3人だけ。彼らさえ倒せれば、挟み撃ちは可能よ」
ただ実際、一人は不意打ちで倒せても、残りに二人が抵抗することは目に見えている。その時点で、間違いなく隊長はこっちの作戦に気づくだろう。
おじいちゃんの言葉を思い出す。
「生き残るために、周囲のあらゆるものを使え」
わたしは、使えるものを求めて辺りを見渡した。
3人の傭兵が立っている左側には、雑木林が広がっている。
そこに誘いこみ、一対一に持ち込めれば勝機はある。
けど、わたしを見つけた時点で、二人一組で来る可能性が高い。
そのとき、”ガサッ”と音を立て、雑木林から一匹の鳥が羽ばたいた。
三人の傭兵が、即座に銃を向ける。
……が、月光の薄明かりに照らされた梟の影を確認すると、再び正面へと向き直った。
もしあの影がわたしだったら、一斉射撃の的になっていただろう。
――あ。
その時、わたしは不意に閃いた。
「十萌さん、あの蝙蝠使えない!?」
「え!?蝙蝠って、あのカミラのアバターの?」
「そう。あれが脳波操作できれば、相手を分散できるかもしれない」
わたしは足音を立てずにその場を去ると、カミラとの戦闘があった場所に戻る。
意識を失っているカミラから10メートルほど離れた場所に、蝙蝠アバターは落下していた。
操り手を失い、糸が切れた凧のように動かない。
「十萌さん、使えそう!?」
VRスカウターの映像を通して、内部の損傷具合をチェックしてもらう。
「ええ、多少飛行速度は落ちそうだけど、陽動作戦に使うには十分よ。ただ、問題は認証ね。カミラの脳波にだけ反応するように設定されているようだから、プログラムを書き換えなきゃならない」
――カイをはじめ、スカルからのハッキングに、アイロニクスのプログラマーは全精力を注いでいるところだ。
「僕にやらせて」
VRスカウターにソジュンの顔が映る。
「アバターが壊されて、早々に戦線離脱しちゃったからね。僕もみんなの力になりたいんだ」
そう言うと、答えも聞かずに、十萌さんの前のPCに陣取る。
「カイには及ばないけど、他の人たちよりは大分マシなはずだよ」
十萌さんにパソコンのロックを解除させると、ソジュンは流れるようにプログラムコードを書き直し始める。
ものの5分もせずに、ソジュンは最後のキーを叩く。
「認証コードは解除した。これで、ここにいる誰もが脳波操作可能だ」
「すごい、ソジュン兄ちゃん、恰好いい!」
悠くんが弾んだ声で言う。
――良かった。
どうやら、砲弾でアバターを吹き飛ばされたショックから立ち直れたようだ。
ストレートな賞賛に少し照れた様子で、ソジュンは言う。
「蝙蝠アバターの操作は、僕と悠馬に任せて。あんな見張りの三人組はとっとと片付けて、みんなを助けに行こう」




