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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第9章:攻防の果て【2029年8月31日】
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第76話:弱者

挿絵(By みてみん)


「わたしは、エリーを信じ抜く」

 そう言って、わたしはカミラと対峙する。


 天には、半月(ハーフムーン)が光を放っている。


「信頼なんて、弱者同士の自己陶酔だろうが」

他人(ひと)を信じることさえできない、弱いあんたの言葉なんて響かない」


「はっ。弱者っていうのは、最後に地面に倒れている奴のことを言うのさ!」

 殺気を四方にまき散らしながら、縦横無尽に大鎌を振り回す。


 強化服(パワースーツ)によって筋力が倍増したカミラの一撃は、速さと重さを兼ね揃えている。

 正面から斬り合えば、竹刀ごと両断されるだろう。


 ――けど。

 殺気を感知することで、剣戟のタイミングと角度は予測できる。


 ゾーンに入ったわたしの脳は、その剣戟をシミュ―レーションし始める。


 あと十数撃避けられれば、隙ができるはずだ。その瞬間に、わたしの最高速度の打突をカミラの鳩尾(みぞおち)に繰り出す。心の中で、カウントダウンを始める。


 ――次だ。

 そう思った瞬間、突如、アバター(わたし)の首が切られるイメージが脳裏を過った。


「まずい!」

 そう直観が告げた。


 半月が、一瞬翳った。

 刹那、後頭部を強い衝撃が襲った。

 あり得えるはずのない角度からの襲撃だ。


 十萌さんが叫ぶ。

「敵の蝙蝠(こうもり)型アバターよ!」


 体勢を立て直そうと顔を上げると、そこにはいつもの酷薄な笑みを浮かべたカミラがいた。


 罠か!

 あの溢れんばかりの殺気も、読めたと思った太刀筋も、この不意打ちのためのカモフラージュだった。


「このまま死ね」

 カミラは渾身の力で、わたしの首筋めがけて大鎌を振り抜いてくる。


 わたしはとっさに木の葉をカミラに投げつけ、ひるんだ隙に同時に強く地面を蹴る。

 鎌の刃が、さっきまでいた地面に突き刺さる。


 わたしはそのまま転がるように右前方への移動する。

 そこに、さっきの蝙蝠型アバターが再び、その爪を突き付けてくる。


 慌てて竹刀で撃ち落そうとする。

 ……が、蝙蝠は突如急上昇し、易々と躱されてしまう。


 十萌さんが言う。

反響定位(エコロケーション)よ。本物同様、蝙蝠型アバター(そいつ)も超音波で障害物を察知してる」


 強化服で速度を上げた大鎌と、蝙蝠型アバターの空からの一体攻撃。


「大鎌の弱点なんて、とっくに分かっている。訓練で、あの隊長にさんざん煮え湯を飲まされたからな」


そういえば、カミラもその隊長の指示にだけには素直に従っていた。


「隊長は、お前らに敗れて置き去りにされたあたしに、もう一度チャンスをくれた。本堂にいるお前の仲間たちも、今ごろ地獄に叩き落としてくれてるだろうよ」


 わたしの胸に、怒りを通り越して、憐みに似た感情が去来する。

 彼女もまた、隊長(誰か)に信じられたいと思っているのだ。


「もう一度言うわ。あんたたちなんかに、わたしもエリーも絶対に負けはしない」


 わたしは再び正眼に構える。

「次の一撃で、それを証明してみせる」


「やれるもんなら、やってみな!」


 そう叫んだカミラが左斜め下から、逆袈裟斬りを繰り出してくる。

 同時に、右上空から蝙蝠が急降下してくる。


 わたしは屈むと同時に、カミラの大鎌の柄を竹刀で下から跳ね上げた。

 大鎌の軌道が斜め上に逸れる。


 その軌道上にあるのは、蝙蝠アバターだった。

 大鎌の刃を逃れるように、蝙蝠は急速に右に方向転換をする。


 その位置ちょうどに、わたしは竹刀を斬撃を繰り出す。

 大鎌と竹刀に挟まれ逃げ場を失った蝙蝠は、叩き落され、地へと落ちていく。


「なん……だと!?」

 カミラの声が闇夜に響くより前に、私の剣先は彼女の鳩尾(みぞおち)にめり込んでいた。

 

 意識を失ったカミラの身体が崩れ落ちる。


 「あんたの敗因は、一人だったってこと」

 わたしは、地に横たわるカミラに告げる。


 一人の人間が、あれだけの大鎌を高速で振り回しながら、同時に、脳波で蝙蝠アバターを操作するのは、相当難易度が高い。それができるだけでも、稀有なセンスの持ち主と言える。


 けど、鎌と蝙蝠の両方に意識が奪われる以上、どうしてもそれぞれの軌道が単調になる。そして、どんなに超音波で相手を察知しようと、軌道を読んで逃げ道自体を封じれば、叩き落すことは可能だ。


――もし、彼女に信じられる仲間がいて、蝙蝠アバター操作を委ねていたら、たぶんわたしは負けていた。それほど、紙一重の戦いだった。


 本堂に向かって走りだそうとしたわたしに、十萌さんが声をかける。

 「結索(けっさく)を忘れないで」


 結索とは、敵の手足を縛ることだ。


 わたしは自分の焦りを自覚する。カミラが目覚めた後、背後から襲われたら元も子もない。

 おじいちゃんのお陰で、野山の植物の蔓や茎を使って、数十秒で結索ができるようになっていた。


 ――急がなくちゃ。


 夢華、アレク、エリーの三人でも、武力的に圧倒的な不利な状況で、いつまで持ちこたえられるかは分からない。

 ようやく本堂の入り口に周ったとき、わたしは目を疑った。

 本堂の入り口方向から、炎と煙が上がっていたからだ。


 ――まさか、燃えてる!?


挿絵(By みてみん)

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