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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第9章:攻防の果て【2029年8月31日】
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第75話:死神の鎌

挿絵(By みてみん)


「お前に選択肢を与えてやるよ」

 魔女を思わせる黒いフードに全身を包んだカミラが言う。


「おとなしくアバターの(その)首を差し出すか、それとも、死神の鎌(これ)に無理やり狩られるかを」


 そう言って、身長を遥かに超える巨大な鋼鉄の鎌を誇示する。

 総射程は3メートルを超えるだろう。


 ――この竹刀で対抗できるだろうか。


 前回は夏美さんが託してくれた神刀があったらかこそ、互角の戦いができた。

 けど、この竹刀じゃ、相手と切り結んだ瞬間に体ごと切断されるだろう。


 十萌さんがVR越しに声をかけてくる。

「挑発は無視して。あの時より、リンは格段に強くなっている」


 その言葉にわたしは冷静さを取り戻す。

 そうだ。山籠もりでわたしたちは強くなった。


 わたしは神経を集中し、フロー、そしてゾーンへと入る。


「脳波伝達率99.2%」

 十萌さんが言う。

 これで、ほぼ完全に、アバターを動かせる。


 カミラの武器は、射程の長い大鎌だ。

 一撃目を交わし、懐に入れれば勝ちが見えるはずだ。


 前回対決時の剣速なら、十分に対応できるはずだ。


 ――けど、このカミラがそんな甘い相手だろうか。

 何より、同じくゾーンに入っていたはずのミゲーラがあの短期間でやられているのだ。


 わたしは、一計を案じる。


 地面に落ちている30cmほどの木の枝を拾い、それを槍のようにカミラに投げる。

 同時にわたしは、その間合いを一気に詰める――。


 カミラは上に構えた鎌で、枝を斜め下に叩き落すと、下から鎌を一気に跳ね上げる。

 その第二撃が、重力に反するかのように、”ぐんっ”と急加速した。


 ――速い!

 それは、わたしの太刀筋を遥かに超えるスピードだった。


 ほとんど、人間技じゃない。

 もし、予定通り、後ろに退がら(ステップバックし)なければ、完全にぶった切られていたに違いない。


「その腕は……」


 攻撃の瞬間、カミラの腕が垣間見えた。私の疑念が確信に変わった。


「は、良く初見で見破ったな」

 そういってカミラはフードを脱ぎ捨てる。


 いつもの肉感的なタンクトップが露わになる。

 しかし、右肩から腕の部分にかけて、異常な膨らみがある。


 まるで、そこにだけ巨大な義肢をはめ込んだような……。


「それって、エリーの……」

「そうだ。強化スーツってやつさ。但し、右腕の戦闘力向上にだけに特化したな」


 わたしの胸に、ふつふつと怒りがこみ上げている。

 自分の足で歩くという願いをかなえるため、10年かのリハビリの末、エリーがようやくたどり着いたのがこの強化スーツだった。


 それをカミラは、相手を傷つけるためだけに使っている。


「こいつのお陰で、斬撃スピードはお前の竹刀を遥かに超える。仮にゾーンに入ったとしても、お前に勝ち目などない」


 ――でもどうやって、最新型のはずのバイオニック義肢を入手できたんだろう。


()()()()()()()()()()()()()()()()


 カミラはにやりと嗤った。

「あんな情報を、わざわざ無償(タダ)で提供してくれるなんてな」


 わたしを言葉を失う。

 エリーが、カミラたちに……?


「スパイ様のお陰で、こっちの研究も(はかど)ったよ」

 そういって、巨大な鎌を軽々と振り回す。


 夢華がスパイ!? そんなこと、天地がひっくり帰ってもあり得ない。

 親友が侮蔑され、頭の血が沸騰しそうになるのを感じる。


「ま、信じようと信じまいと一向にかまわんよ。どうせ、今日までの付き合いなんだろ?」

 そういって、一歩、間合いを詰めてくる。


 わたしは、混乱する頭で必死に考えていた。

 

 思い起こせば、確かに不可解な出来事もあった。


 研究所に、敵のトンボ型ドローンが入り込んでいたこと。

 悠馬君が、誘拐されたこと。

 非公開のはずの三式島での(この)儀式が、狙い打ちされていたこと。


 もしかしたら、研究所内部に内通者がいたと考える方が、合理的なのかもしれない。


 ――でも。


 わたしは、夢華の言葉を思い出していた。

「一度信じると決めたなら、信じ抜くだけ」


 そう。わたしは、とっくに決めている。

 エリーを、そして彼女と一緒に過ごした日々を信じることを。


 信じるということは、願いにも似た想いなのかもしれない。

 その願いを乗せたかのように、夜空に一筋、星が流れた。


挿絵(By みてみん)

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