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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第9章:攻防の果て【2029年8月31日】
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第74話:今、守るべきもの

挿絵(By みてみん)


 ドゴォォォォォォォン!!!


 轟音とともに、本堂のドアが吹っ飛んだ。

 黒い巨大な塊が、本堂の入り口にめり込んでいる。


 それは、黒塗りの装甲車だった。

 どうやら、装甲車(それ)を、わたしたちの攻撃への防壁替わりに使うつもりらしい。

 

 その陰には、残りの傭兵部隊が身を潜めている。


 「GO!」

 隊長の合図とともに、装甲車の影から数名が姿を現し、機関銃を掃射する。

 アバターの胴体に銃弾が掠る。


 ――アバターの確保から、破壊に作戦を切り替えたのだろうか? 


 次の瞬間、拳くらいの何かが3つ、こちらに向けて放り投げられた。


 ――手榴弾!?

 アレクとソジュンが空中で撃ち落す。


 が、空中で爆破すると思われたそれは、猛烈な勢いで白い煙を噴き出し始める。


「白煙弾だ!」

 アレクが叫ぶ。


 視界が煙で真っ白に染まり、敵はおろか、となりに立っている悠くんとソジュン以外は、味方の姿さえ視認できなくなる。


 目を凝らすと、白煙の中を、赤い線が照射されている。

 

 ――あれは?


 夢華が吠える。

照準器(ポインター)よ! 射撃が来る。伏せて!!」


 わたしは反射的に伏せる。

 ……が、悠くんは、コンマ1秒反応が遅れる。

その隙を、敵は見逃さなかった。


 ”ドォン”という、腹に響く音が鳴り響く。


 バギンッ!!!

 金属で思いっきり固いものをぶっ叩いたような音が響くと同時に、悠くんのアバターの胴体が吹き飛ばされた。


 アバターの頭部が空中に舞い、鈍い音を立てて本堂の床に落ちる。


 ――何が起きたの?

 そう思う間もなく、今度はソジュンのアバターの右腕が、握っている銃ごと吹き飛んだ。


 ソジュンが叫ぶ。

「気をつけろ!バズーカ砲だ!触れたら、胴体ごと吹っ飛ばされる」


「全員、仏像の背後まで走って!!」

 夢華が指示を出す。


 ――そういえば……。

 合宿のとき、わたし達は偶然発見していた。


 あの巨大な釈迦如来像の裏には、外へと繋がる小窓があったはずだ。


 確か鍵はかかっていたけど、あれくらいなら……。


 その意図を汲んだミゲーラが、カポエイラ仕込みの蹴りを炸裂させる。

 小窓はほどなくして蹴破られ、大人でも、かがめば通れるくらいの空間が生まれた。


「敵の標的は、おそらくアバターの首よ」

 そう夢華が言う。

「無傷のままアバターを確保するのは難しいと見て、狙いを”頭部”だけに切り替えたみたいね」


 アレクが頷く。

「だから、弾道が胸部より下に集中していたわけか。バズーカ砲も、頭部まで破損させないないよう、雷管を調整していたはずだ」


 夢華が十萌さんに訊く。

「今、()()()()()()()()()()?」


 十萌さんは瞬時に答える。

「巨大アバ(K5)ターの人工頭脳だけは死守して」


 確かに、以前十萌さんは言っていた。

 K5は、「人工頭脳を搭載した、世界初のアバター」だと。

 あんな卑劣な敵に奪われた場合、それがどう使われるかは想像もしたくない。


 夢華が指示を出す。

「私、アレク、エリーは本堂(ここ)で敵を迎え撃つ。ソジュンは、悠くんのアバター頭部を確保。ミゲーラとリンは、この扉から外に出て、敵を背後から攻撃して!」


 ――そうか!

 敵は入口付近に集中している。

 わたし達が背後から襲えば、挟み撃ちの形になる。


 まずは、ミゲーラがその身をかがめ、外へと出る。


 わたしはソジュンに声をかける。

「悠くんのこと、頼んだわね」


 おじいちゃんとの修行を積んできたわたし達と違って、悠くんは初めての実戦だ。

 

 そして何より、彼はまだ小五なのだ。

 アバターとは言え、脳波と視界がアバターにリンクした状態で、体を吹き飛ばされる恐怖はどれほどのものだっただろう。


「任せて」

 右腕を失ったソジュンが力強く答えてくれる。

 案外、年が一番近いソジュンこそ、悠くんの気持ちに最も寄り添えるのかもしれない。


 わたしは身をかがめ、小窓をくぐって、小走りでミゲーラを追う。

 ほどなくして、境内の灯に照らされる、ミゲーラのアバターの後ろ姿が見えた。


「ミゲーラ……」

 そう呼びかけて、わたしは息を呑んだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


「ようやく来たか」

 前方で、黒い影がゆらりと揺れる。


 その手には死神を思わせる大鎌が握られている。


「カミラ!」

 わたしの声が怒気を孕む。


 薄明かりに、(カミラ)の酷薄な笑みが照らされる。

「今度こそ、その首を狩ってやる」


挿絵(By みてみん)

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