第73話:不意打ち
「まさに濡れ手に粟ってやつだな。動かないアバターを盗ってくるだけで、あんな大金を貰えるなんて」
門の錠を撃ち抜いた男が、軽口を叩く。
「油断するな。熱探知反応がないとはいえ、罠が仕掛けられている可能性もある」
隊長らしき男が自動小銃を構えながら、ぴしゃりという。
「7体の等身大アバターの回収は、それぞれ、二人一組で当たれ。巨大アバターは、最後に総員で装甲車へ輸送する。他のメンバーは、輸送車の門への横付け、及びその護衛だ」
――あの声って……。
隊長の声音に、さっきから違和感があった。
電子音とまではいかないが、微妙な不自然さがある。小型マイクを通して変声しているのだろう。
隊員たちの暗視ゴーグルにかろうじて顔が判別できるが、隊長は完全なフルフェイスだ。恐らく、監視カメラ越しにも素顔を明かしたくはないのだろう。
「で、あたしは?」
カミラが隊長に問う。
「今は、案内だけでいい。が、万が一の事態に備えて、あれをスタンバイさせておけ」
「はいはい。ま、油断だけはしないでくれや。まぐれとはいえ、一度はあたしを倒した奴らなんだから」
肩をすくめて、数名の隊員とともに壊された門から外に出ていく。
「アバターを確保せよ」
隊長のその一言で、二人一組の隊員は一矢乱れぬ動きで、アバターに近づい来る。
その構えからして、全員が訓練された手練れなのは一目瞭然だ。
――だけど、彼らはまだ気づいていない。
たった数十秒前、カイが通信衛星奪回に成功し、わたし達の脳波が、既にアバター連動していることに。
ツーマンセルが、わたしたちのアバターの射程距離内に入った瞬間。
「――今よ!」
夢華が叫んだ。
座禅の姿勢を取っていた7体のアバターが、突如立ち上がった。
「な、何だと!?」
敵隊員が叫ぶ。
その叫び声は、次の瞬間には闇に消え入る。
夢華、アレク、ミゲーラ、エリー、ソジュン、悠くん、そしてわたしの7人が、同時にアバターを操作し、射程内の敵をそれぞれの武器で思いっきりぶん殴ったからだ。
ツーマンセルの特徴は、一人がやられた瞬間に、もう一人が即座にカバーできるところにある。
すぐさま、もう一人の隊員がアバターに銃口を向けてくる。
だけど、直前に隊長は言っていた。
「アバターは極力傷つけるな」と。
それこそが夢華の狙い目だった。
「こうした組織では、隊長の命令が絶対なの。だからこそ、そこに躊躇が生まれるはず」
「第二撃!」
夢華の合図で、ツーマンセルの2人目を攻撃する。
夢華は三節棍で突き、エリーは二刀流で切り付け、ミゲーラは仕込み刀で蹴り上げる。
敵後方部隊は、アレクとソジュンが狙撃する。
そしてわたしは、操作者不在で動けない中央のK5と、緊張のせいなのか動きが鈍い悠くんのアバターを竹刀で護る。
相手がバタバタと倒れていく。
瞬きする間に、二十数名いた敵部隊は、半分にまで減っていた。
「退がれ!」
隊長の言葉に、無傷の隊員たちが、弾かれたように後退する。
「全員、建物の外まで撤退しろ。待機組と合流し、チームを再編成する」
銃口をアバターに向けたまま、迅速に撤退していく。
さすがに敵もプロだ。既に追撃の隙はない。
夢華が言う。
「もう不意打ちは通用しない。次が本当の勝負よ」




