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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第9章:攻防の果て【2029年8月31日】
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第72話:亡霊

挿絵(By みてみん)


「あ、あのファントムと、緊急回線(ホットライン)が!?」

 ソジュンの声が興奮で裏返る。


「ファントムって、確か、さっき言っていたレジェンド級ハッカーの最後の一人だよね? カイと、スカルと、そしてもう一人の」


私の問いかけに、ソジュンが畏敬の念を込めて答える。

「そう。ファントムは、正体につながる痕跡を一切残さない。それほどまでに、彼のハッキング技術は他を圧倒している。亡霊(ファントム)と呼ばれている所以(ゆえん)だ」


 ――確かに、ファントムは独裁国家のシステムにハッキングしたとも言っていた。

正体が明るみにでたら、それこそ命が危険に晒される。身元を隠すのは当然のことなんだろう。


「でも、そんな相手に、どうやって接触(コンタクト)するの?」


 十萌さんは、神妙な表情で言う。

「カイさんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なの」


 ――許された? 世界に二人?

 掴みどころのない回答に、わたしは困惑する。


「指紋・声紋・虹彩認証、いずれもクリアしました。128文字の時限パスワードを入力ください」

 カイのコンピューターから合成音声が響く。


 3つの認証に加えて、128文字のパスワードって……。

 一体、どれだけ厳重なのだろう。


「パスワード確認しました。今から、ホットラインを開きます」


 七回目のコール音が響いたとき、不意に、回線がつながった。


 画面の向こうに、デジタルの数字が滝のように流れ始める。

 その中に白いパーカーのようなシルエットが浮かびあがった。


 だが、そのシルエットの中はがらんどうだ。

 あたかも、亡霊が、デジタルの奔流の中に揺蕩(たゆた)っているかのように。


「時間がない。スカル撃退と、通信衛星の再奪取(ハッキング)に力を借りたい」

 カイが単刀直入に切り出す。


 亡霊(ファントム)が訊く。

「それは、”()()()()()()()()”ということだな?」


「ああ。その覚悟はできている。護りたいんだ、彼女たちを」

 カイの答えに、迷いはなかった。


「……了承した。30秒後、()()()()を始める」

 それだけ言って、突如、通信は途切れた。


 誓約? 強制共振?

 ――それって、どういう意味なんだろう。

 

「敵の一団は、山野辺家に向かって車で移動中。到着まで、あと6分程度と推察されます!」

 十萌さんの副官の、サヤカ・カーティスが叫ぶ。


「山野辺家にいるアイロニクスのスタッフは、今すぐ安全な場所へ避難して!」

 振り向きざまに、今度はわたしたちに向かって呼びかける。


「みんなの専用武具はアバターに装備させてあるわ。ファントムとカイさんが、通信衛星を再奪取した瞬間、アバターに脳波連動させるわよ!」


 あれこれ問うている暇はない。

 わたしたちは、VRスカウターを改めて装着し、戦争部屋(ウォールーム)の中のカイの様子を窺う。


 多くのコードが生えている、フルフェイス型のデバイスを装着したカイは、画面に向かって静かに座っている。


 突如、”ビクン”!とカイの身体が大きく震えた。

 ホラー映画で、何かが憑依したときのような、突然の動きにわたしたちは目を見張る。


 わたしたちの心配をよそに、カイの手がふらりとキーボードに向かう。


 ――あんな状態で、十分に操作できるのだろうか?


 しかし、その心配は、完全に杞憂だった。


 ひとたびキーボードに触れたとき、カイの指先が、凄まじい速度で動きだした。それに連動し、7体の蜘蛛人間型アバターも変幻自在にキーボードを操作している。


 さっきまでのタイピングも、確かに速かった。だけど、今の動きは、それを完全に超えている。

 まるで、全ての譜面が完全に脳に入っているピアニストのように、何の迷いもない無駄もない指使いだ。


「敵勢力、山野辺家本堂に到着。門には施錠はしていますが、壊されるのも時間の問題かと思われます」


 ガン!ガン!ガン!

 門を無理やりこじ開けようとする音がする。


「スクリーンを、山野辺家の本堂の監視カメラに切り替えて!」

 そう十萌さんが指示すると、正面スクリーンに様々な角度からの12分割された映像が投影される。


 そこに映し出されていたのは、20名を超える、完全武装の傭兵の一団だった。

 それぞれが、手に銃火器やナイフなどを持っている。


「めんどくせぇ」

 やがて、その内の一人が、突如鍵に向かって発砲した。


 鍵が砕ける。

 数人の男が、思いっきりを扉を蹴り上げ、門が吹っ飛ぶ。


 男たちが、土足で、本堂へと入り込んでいく。


「熱反応はない。だが、万が一敵を発見したら即時制圧しろ。但し、アバターは極力傷つけるな」

 リーダー格らしき男が指示を出した。


 その男の後ろを歩く、黒いフードをかぶった女には確かに見え覚えがあった。


 ――カミラだ。

 悠くんを誘拐し、わたしを殺そうとした女。

 彼女は、その位置を正確に把握しているかのように、監視カメラに向かって愉しそうな笑みを浮かべる。


 正面のスクリーンが切り替わり、本堂の中央には、巨大アバターを中心として、車座で鎮座する7体のアバターが映し出される。


 ――まずい。間に合わない!


 そのとき。

 カイの声が高らかに響いた。


「通信衛星奪回に成功した! 全員、アバターへの脳波連動を開始!!」


挿絵(By みてみん)

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