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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第9章:攻防の果て【2029年8月31日】
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第71話:強奪

挿絵(By みてみん)


 報極寺の本堂に駆け付けた私たちを待っていたのは、緊迫した面持ちの星だった。

「カイは?」


「今もまだ、スカルのサイバー攻撃に防戦中だ」

 そう言って、戦争部屋(ウォールーム)を指さす。


 ガラス張りの部屋を見ると、カイと7体の蜘蛛人間アバターがキーボードを叩き続けている。一瞬たりともスクリーンから目を離していないのか、その目は血走ってきている。


 ――カイのここまで必死な様子は初めてだ。

 逆に言えば、スカル一派が、そこまでの強敵なのだろう。


「でも、神剣奉納祭は終わったのに……。何で今さら三式島に?」


 わたしの問いに、星が答える。

「敵の真の目的は、三式島にあるリアルアバターを強奪することだったんだ」


 ――え!?


「山野辺家の本堂には、火龍の舞を終えたばかりの7体のリアルアバターが置かれている。それに、一心先生が操作していた、5mの巨大アバターも」


 わたしは、戸惑いながら訊ねる。

「え、でも、火龍の舞に合わせて、脳波情報を全世界に公開した以上、機密情報としての価値は失われるって話じゃ……?」


「脳波情報自体はね。でも、脳波技術は、その”受容体”としてのリアルアバターが揃って、はじめてその価値を発揮する。もし、今の時点でリアルアバターを独占できれば、他国やライバル企業を出し抜くことができる」


 夢華が、ストレートに問う。

「そんなことは分かっているわ。問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。日本政府が、海上封鎖していたんじゃなかったの?」


 ――あくまでも憶測だけど、と言って十萌さんが答える。


「リンと夢華に敗れた後、カミラたちは、島から脱出したと思っていた。でも、実際は、島に潜伏し続けていた可能性が高い」


「潜伏って、一体どこに?」


「恐らくは、無数にある地下洞窟の一つに。度重なる噴火で三式島の地形は複雑に入り組んでいる。七海教授さえ、全貌をつかみきれないほどに」


 奇岩の海岸で修行していたとき、確かに十萌さんはそう言っていた。


 実際、蝙蝠が飛び交うあの洞窟は、数十人くらいなら隠れても気づかないくらい巨大だった。

 もし、あんな地下洞窟に潜伏しているとしたら、敵の発見は至難の業だろう。


「これ、すぐに装着して」

 十萌さんの指示に従い、スタッフがわたし達それぞれに、スカウタータイプのVRゴーグルを渡してくれる。三式島でのカミラとの闘いに使った、いわば戦闘特化型の機器だ。


「日本の海上保安庁には既に連絡してある。彼らが到着するまでは、自分のアバター()は自分で守って」


 スカウターを左目に装着しながら、アレクが、不可解そうな表情を浮かべる。

「もし私たちが、アバターを脳波操作して本気で抵抗したら、強奪なんてできるはずがない。そんなことも分からない、単純な相手とも思えないが……」


 ――それもそうだ。

 現時点で、わたしたちのアバター操作は、世界でもトップレベルに達している。

 アバターを操作して迎撃するか、それでなくても最悪、アバターごと敵の手から逃げればいい。


 スカウターから、カイの声が響く。

「現地からの映像によれば、現在的は、島の反対側に集結し始めている。その数、約20名。おそらく15分以内に、山野辺家の本堂に到着するはずだ」


「俺は、引き続き、スカルによるセンターAIへ攻撃に対するデジタル防壁網の構築に集中する。だから、みんな自分のアバターの身は、自分で守ってほしい」


「了解!」

 そう言って、わたしたちは、VRスカウターを経由して、アバターに脳波を連動させる――はずだった。


 ――あれ?

 本来であれば、アバターの目線の切り替わるはずのスカウター画面には、何も映っていない。


 つまりそれは、脳波がアバターに届いていないことを意味する。


 慌てて周囲を見渡すと、どうやら、みんな同じ状況のようだ。

 それぞれに困惑の表情を浮かべている。


「どうなってるの?」

 つい1時間前までは、全く同じ手順でアバターと脳波連動できていた。

 それが、突如誰一人として接続不能な状態に陥っている。


 そのとき、アラーム音とともに、アイロニクスのスタッフの声が響く。

「三式島と鎌倉を接続していた、日本国の通信衛星がハックされています!アバターへの脳波送信が阻害されています!!」


 ――通信衛星が、ハックされている!?

 それによって、脳波を乗せた電波が、アバターまで届かなくなったということだろうか?


「敵の特定は?」

 十萌さんが訊く。


「相手からの、映像メッセージが届いています!」


「画面を切り替えろ」

 カイが低い声で言う。


 切り替わった画面を見て、わたしは思わず叫ぶ。

「カミラ!!」


「残念だったな。日本国政府の通信衛星は、あたしたちがハックした。天下のカイ・ローゼンバーグでも、スカルの攻撃との同時対応は不可能なはずだ。大切なアバターが奪われていくのを、鎌倉(そこ)で指を咥えて見ているがいい」


 そういって、カミラは笑い声をあげる。

 復讐の愉悦に支配された、狂気と冷徹さを孕んだあの笑い声を。


 そこで映像は終わった。


 わたしは背筋がぞくりとした。

 奴らは、最初から三式島(アバター)を狙っていたのだ。


 カイを自由にしたら、気づき次第、間違いなく彼らの計画を阻止する。

 だからこそ、わざわざ事前予告までしてスカルをカイにけしかけ、その動きを封じ込めた上で、通信衛星をハックしたのだ。


 慌てるわたしとは対照的に、夢華は冷静な様子を崩さない。

 そして、きっぱりと言った。


「カイ、あんな奴らに今までの成果を奪われるのを、黙って見ているつもり?()()()()()()()()()()()()()()


 確かに、以前サイバーアタックの懸念について話し合ったとき、カイは言っていた。

『いざというときの切り札がある』――と。


 それは、てっきり7体の蜘蛛人間型アバターのことだと思っていた。

 

 ――だけど。

 よく考えれば、徹底した秘密主義のカイが、切り札(ジョーカー)をあんなにも簡単に切るのはおかしい気もする。


 ガラス越しのカイは、夢華の問いに、僅かに逡巡(しゅんじゅん)した様子だった。

 十萌さんの表情からも戸惑いが伝わってくる。


 ――その切り札とやらは、そんなにヤバいものなんだろうか?


 それでも、カイは意を決したようにこう宣言した。


「危機レベルを一段階引き上げる。新ミッションは、日本国の通信衛星の奪回と、スカルの撃退だ。即時、ファントムに緊急回線(ホットライン)を繋ぐ」


挿絵(By みてみん)

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