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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第8章:3つの戦場【2029年8月16日】
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第69話:余命

挿絵(By みてみん)


おじいちゃん(あの人)が、動かないの」

 おばあちゃんの言葉に、心臓が凍り付く。


 儀式を終えた後、おじいちゃんだけ別室の方に歩いて行ったはずだ。

 今思えば、その足取りが珍しく重かった気がする。


 十萌さんが即座にスタッフに指示を出す。

「外で待機している、医療(メディカル)チームに連絡して!ASAP(大至急)!!」


 同時に、おばあちゃんに尋ねる。

「おじいさまは、今どこに?」

「初日にお茶を飲んでいていた、和室です。珍しく疲れたみたいで横になっていたのですが、しばらくして呼びかけにも答えなくなって」


 私たち全員は、取るものも取らずに、和室へと駆け付ける。

 ほぼ同時に、医者と看護師らしい白衣のメンバーも入室してくる。


 おじいちゃんは、畳の上で横になっていた。

 一見して、寝ているだけのようにも見える。


「すぐに診察を」

 十萌さんの指示に応じ、医師と看護師が移動式のベッドににおじいちゃんを寝かせ、呼吸や脈拍をチェックし始める。


「心拍・呼吸ともに微弱ながらあります。ですが、極度の衰弱しており、昏睡状態です」

 そう医師は言う。


「一旦、酸素補給と、点滴を行いますが……。体力が極度に消耗しているので、時間はかかります。一体、何をなさっていたのですか?こんなご高齢なのに」

 その質問に、言葉が詰まる。


 確かにおじいちゃんは80歳を超えている。世間的に言えば紛れもない高齢者だ。

 

 ただ、合宿に入って以来、その超人的な能力を見せつけられてきて、その単純な事実でさえも忘れかけていた。


 医師の指示で、看護師が酸素マスクと、点滴の静脈注射の準備を始める。


「昏睡の原因を特定する必要があります。持病などの心当たりはありませんか?」

 医師が、おばあちゃんに訊ねる。


 おばあちゃんは、心を落ち着かせるように、一度目を閉じた。

 そして、震える声で医者にこう伝えた。


(この人)は、自分のことを余命1カ月と言っていました」


 ――え? 

 突然の宣告に、わたしの頭は真っ白になっていた。


 一瞬の間をおいて、今度は、様々な疑問がぐるぐると回り始める。


 だって、ついさっきまで、一緒に火龍の舞を舞っていたのに。

 山籠もり修行では、わたし達を何度も何度も何度も、私たちを倒してきたのに。


 それは、みんなも同じ気持ちだったようだ。

 夢華でさえも、沈黙を保っている。


 わたしは、ようやく口を開く。

「おばあちゃん……。余命1カ月って、本当なの?」


 おばあちゃんは、ただ頷くばかりだ。


 ――でも、何で?

 どうして今まで何も教えてくれなかったの?


 そんな疑問が頭の中を駆け巡る。

 ただ、動揺しているおばあちゃんをそうやって問い詰めるわけにもいかない。


 その時、和室のドアが開き、住職さんが夏美さんと共に部屋に入ってくる。

 点滴が繋がれているおじいちゃん見ると、その目に哀しみと、そしてどこか諦念にも似た表情を浮かべた。


「話は聞きました。わたしから知る限りの背景をお話しましょう。まずは、お座りください」

 そう言って、椅子を勧める。


「お茶を立てましょう」

お茶なんて(そんなの)飲んでいる場合じゃ……」


 住職さんは、珍しくぴしゃりと言う。

「こういう時だからです。医者は医者、あなたたちはあなたたちです。自分がやれること、やるべきことに集中なさい」


 そう言って、住職さんは、迷いのない所作でお茶を立て始める。

 おじいちゃんよりは若いが、それでも70代の住職の手は、いくつもの歳月を越えてきた深い皺が刻まれている。


 わたしたちは、目の前に置かれた温かい抹茶を喉に流しこむ。


 ――そういえば、初めて報極寺に来た時も、このメンバーでお茶を飲んでいた気がする。


 どうやら、お茶のおかげで、少しだけ気持ちが落ち着いてきたようだ。


 全員にお茶が行きわたった後、住職さんが切り出す。

「おじい様は、全てを覚悟していらっしゃいました。三式島の噴火の一報を聞き、夏美さんから神剣奉納祭の相談を受けたときから」


 そして、と続ける。

「その時点で、既に余命宣告を受けていたのです。そして、それを知っていたのは、ご本人を除けば、私と奥様だけです」


挿絵(By みてみん)

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