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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第7章:山籠もり【2029年8月8日】
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第59話:常在戦場

挿絵(By みてみん)


 隠れ滝を潜り抜け、洞窟から足を踏み出そうとした瞬間。


 前を歩く夢華が瞬時に三節棍を振りぬいた。

 何かを弾くような音がする。


 私も慌てて、竹刀を構える。


 ――襲われた?


 夢華はこともなげに言う。

「ソジュンよ。10時方向から狙撃されたわ」

「え、何でソジュンが?」


「ああ、ソジュンとアレクには、いつでも私を狙撃してって、伝えてあるの」

「え、どうして? おじいちゃんと相対するだけでも至難なのに」


 夢華は呆れたように言う。

「あのね、実際の戦場に立った時、相手が一対一で向かってきてくれると思う?」


 不意に、以前、カイが私に言い放った言葉を思い出す。

『大切な人が銃で襲われたとき、同じこと言うつもり?』


 ――何でわたしは、いっつもこうなんだろう。

 自分なりには真剣なはずなのに、みんなの覚悟に触れるたびに、自分の甘さに気づかされる。


 落ち込むわたしを見て、ふぅっと夢華がため息をつく。

「ま、仕方ないか。命がけの競争が少ない国で育ってきたんだものね」


 反論しようとする。……が、言葉がでない。

 世界には、日々の食べ物や安全な住居を、子ども時代から奪い合う国が、確かに存在する。


 片や日本は、かつて「戦争」と呼ばれた大学受験でさえも、全入時代となって久しい。


「ついてきて」

 そういって、夢華は踵を返す。


「命を懸けざるを得ない場所に、案内するわ」


 **********


「ここであれば、、()()()()()()()ができるはず」


 険しい山の斜面を登った場所に、滝の頂上(その場所)はあった。


 わたしは眼下の滝つぼを見下ろす。

 その高さに足が震える。


 ここで戦って落ちれば、命の危険性さえある。


「あなたは、気持ちにムラがありすぎる」

 そう夢華は言う。


「カミラのような()()()()()()が来た時に、ようやくスイッチが入る。けど、ほとんどの時間はフローにもゾーンに入ることなく、ただ漫然と過ごしているだけ」


 ――う。

 反論できない。


「カミラの場合は、始めは殺意が無かった。だからゾーンに入るまでの時間が稼げたの。だけど、本当に危険な敵は、殺意さえも見せずに相手を殺している」


 思わず背筋がぞっとする。

「そ、そんな人なんて本当にいるの?」


「あなたが知らないだけ。まるでテトリスのブロックを消すかのように、何の罪悪感もなく人を消せる人は、どの国にもいるわ」


 例えば、と言って、夢華は上空を見上げる。

()()()()()()()()()()()()()()()()、奴らのようにね」


 わたしも思わず上空を見上げる。

 一羽の鷹らしき鳥が、上空を舞っている。


 ――ん?

 よく見ると、飛び方が不自然だ。

 自然の鳥が風に乗って前や前後に飛ぶのに対し、あいつは上下に旋回し続けている。


 ――まさか、あれもドローン?

 だったらここで戦うのもまずいんじゃ……。

 そう思った瞬間、夢華が叫んだ。


「アレク!」


 刹那、夢華の背後の茂みから人影が立ち上がり、上空に向かって棒状の何かが放たれた。

 ――あれは、矢?


 その矢は、まっすぐに宙を切り、見事に鳥型ドローンを直撃する。

 それは糸が切れたタコのように浮力を失い、近くの森に墜落する。


 アレクが茂みから出てくる。

 普段は整えている髭が、だいぶ無精髭に変わってきている。


「いつから気づいていたの?」

「もちろん初日から。ここに登ったときからね」


 アレクは答える。

戦場(バトルフィールド)を俯瞰で把握することは、戦略立案の基本だからね」


 わたしが闇雲に山の中を歩き、おじいちゃんに5回も倒されていたその日、アレクたちは既にこの森の全体像を掴んでいたのだ。


 夢華も言う。

「……というか、見張られていないと思う方がおかしいわ。これだけ世界に注目されておいてね。ただ、高度を保っているドローンを打ち落とすのは難しい。だから()()()()()()


 ――誘い出す?


 混乱してきたわたしに、アレクが解説してくれる。

「森の中の戦いは、木が邪魔になってドローンのカメラは捉えられないからね。遮蔽物のない滝の上での戦いは、敵にとっては録画の絶好の機会になる。そこで、ドローンも近寄ってきた隙を狙って射落としたってこと」


「いつの間にか話し合ってたの、そんなこと?」

 わたしは驚愕する。


「別に。ただ、アレクであれば、そうするだろうと思っただけよ。後ろからつけてくる気配は感じていたしね」


 アレクは肩をすくめる。

「信じてくれたのは光栄だね。ただ、俺は、二人の戦いを特等席で見てみたいと思っただけさ」


 そう言って、河原の岩に腰掛ける。


 ――え?やっぱり、本当に戦うの?

 てっきり、ドローンを撃ち落とすための演技だと思ったのに……。


「さ、邪魔者もいなくなったことだし……」

 夢華は三節棍を構える。


「始めるわよ。命懸けの戦いを」


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
火と氷の未来に向かって進んでいく過程がとても緻密に描かれていてすごいなと思いました。 テクノロジーの事だけでなく人間の精神の部分も深く掘り下げてあって興味深かったです。 SF(シミュレーション・ファン…
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