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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第5章:絶望あるいは希望【2029年8月5日】
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第43話:突破口

挿絵(By みてみん)


――世界の陸地の7~8割が永久凍土で覆われる。


 その衝撃は計り知れないものだった。


 もしこれが、無名の科学者の発言であれば、一笑に付されていただろう。


 だけど、創さんの地質学者としての世界的な名声は確固たるものだったし、そこに世界最大のAI企業・アイロニクス社の若き天才による、地球シミュレーター分析が加わったのだ。


 それでも受け止め方は、それぞれだった。

 懐疑する者、冷笑する者、絶望する者、主導権(マウント)を取ろうとする者、そして謎に前向きな者……。ただ、その誰もが、この危機に具体的にどう対処べきかの回答を見いだせていなかった。


 ――そりゃそうだよね……。

 わたしも、全く同じ気持ちだったからだ。


 大きすぎる危機は、逆に夢物語のようにしか思えなくなってくる。


 実際に会議の中の参加者は、希望的観測を唱えるものも多かった。

 

 ある者は、「そもそもデータが間違っていて、実際に氷河期など来ないのではないか」と疑問を呈し、またある者は「科学技術が急速に発展し、今までにない解決案が浮かぶのではないか」と夢見がちなことを口走っていた。


 そこに、科学的根拠など全くない。だけど、この重すぎる現実に対し、人はどうしても目を背けたくなる。


 そんな状況が1時間ほど続いたその時。

 ヴゥン、という機械音とともに、突如、全ての目の前の画面(モニター)が真っ白に染まった。


 いや、純白ではない。

 中央にLUKAという四文字が浮かんでいる。


 会場がざわついた。

 ――「LUKA?まさかあの……?」


 徹底した秘密主義を貫きながら、アイロニクス社を世界最大のAI会社にまで育て上げた男、ルカ・ローゼンバーグ。


「……父さん」

 隣のカイがごくりと唾を飲み込む様子が分かる。


「諸君」

脳に響くような、威厳と説得力を感じさせる声だ。

親子だけあって、カイの声によく似ている。


全員が固唾をのんで次の言葉を待つ。


「世界の危機に瀕し、希望的観測に縋りたい者もいるだろう。だが、「信じたいものしか信じない」のであれば、それは科学ではなく宗教に過ぎない。すぐさまこの場から立ち去るといい」


さきほどまで、好き勝手言っていた科学者たちが顔色を変える。


その代表格だった、アメリカの科学者が発言する。

たしか、科学とSFが混ざったようなベストセラーを何冊も書き、映画化もされている、お茶の間に人気の学者だ。


「き、君は可能性を探る議論自体を否定するのかね。それこそ、科学への否定じゃないか」


「夢物語は、あなたの本の中で描けばいい。今、語るべきは、私達共通の目的だ」


――場が、静まり返る。


「私たちの共通目的とは何か?それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に他ならない」


「し、しかし、()()()()()()()()()()んだぞ。彼らは、一体どこに住めば……」

膨大な人口を抱える国の大臣が言う。


「その表現は正確ではない。なぜなら、地球の7割はそもそも大地ではないのだから」とルカは切って捨てる。


――あ。

わたしは、社会科の授業を再び思い出す。

確か、地表の7割は……。


「海上か!」

日本国総理大臣、風間真一が初めて言葉を発する。

「つまり、海上都市(メガフロート)を建築し、居住可能地域を増やすというわけだな」


「し、しかし海上で、どうやって人が住むだけのエネルギーを確保するんだ?当然、太陽エネルギーは使えないだろう」

エネルギー問題を常に抱える国の科学者が、訊ねる。


「カイ」

ルカさんが、初めてカイの名前を呼ぶ。

しかしそれは、親子の親しみの情を全く感じさせない、平坦な口調だった。


カイは無言のまま頷くと、バーチャルキーボードを操作する。

再び地球の平面図が現れた。但し、今度は赤でなく、緑色の点が光っている。


その点は、各大陸を取り囲むように、大陸の海岸線に点滅している。

一部、大陸上にも光点はあるものの、その8割が沿岸に集中していた。


その点がとりわけ多く集中している国があった。


――日本だ。


「メタンハイドレートの分布図ですね」

と橘長官が口を開く。


「な、なんだね。そのメタンハイド……何とかってのは?」

別の国の老政治家が問う。


――うっすら聞いたことはあるけど、わたしもよくは知らない。


カイは口を開く。

「メタンハイドレートは、天然ガスの主成分となる、メタン分子と水によって構成されています。これを分離することで、天然ガスとして活用することが可能です」


「それが、この海中に埋まっているってわけか。それで、どれくらいのエネルギーが確保できるんだね?5年分か、それとも10年分か?」


「もし仮に全てを活用できた場合、現行の人類が消費するエネルギーの約800年分から1000年分、と言われています」と、カイ。


おおっ、と期待の声が一部から聞こえてくる。

だが、そこには懐疑のどよめきの色も混ざっている。


「せ、1000年?と、とても信じられん」

と質問した政治家は動揺したように言う。


――で、でもそんなあるんだったら、何で今まで利用してこなかったの?

素朴な疑問がわたしの頭に浮かぶ。


「ですが、それには、採掘に大きな課題がある。そうですね?」

橘長官が口を開いた。


「私が知る限り、推進500メートル以深の海底に眠るシェールガスの採掘には非常に高度な技術が必要となる。失敗すれば、爆発の危険性も大きい。だから、各国は研究を進めつつも、実用段階には至っていない」


その発言に、超大国の科学者が同調する。

「そうだ。その研究なら、我が国だってとっくに取り組んでいる。だが、500メートル、場合によっては1000メートルに及ぶ深海で、しかも爆発のリスクが計り知れないメタンハイドレートを安定的に採掘する技術なんて、存在していない」


再び、画面が白く染まり、LUKAの文字が浮かび上がった。

「自らが知らないことを、存在しないと断言することほど、愚かなことはない」


その声は、託宣のように響く。


 科学者は、自らの発言が言下に否定されて、あきらかに動揺しているようだ。どもりながらも、抵抗を試みる。

「だ、だったら、どう採掘するんだ。深海に人間が潜って、手作業でもするっていうのか?」


その言葉が終わらないうちに、ルカはこう断言した。


「我々は、その突破口を発見した。今、まさに噴火が起ころうとしている、三式島で」


挿絵(By みてみん)


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