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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第20章:韓国・二つの想い【2030年1月30日】
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第291話:トッポギ

挿絵(By みてみん)


「もしこのままチップに頼り続けるようなら、いずれ脳神経が焼き切れるわよ」

 メディカルルームに入った十萌さんが真剣な表情で、ユンに警告する。


 通訳がその言葉を韓国語で伝えると、ユンは一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。


「あの……どうやら”脳内チップ”という言葉を知らないようです」

 通訳が戸惑いがちに言う。


 マジックミラー越しに見る限り、確かに彼女は嘘は言っていないように見えた。


 十萌さんも戸惑いの表情を浮かべる。

「え、もしかして、それも知らないで脳手術を受けたわけ?」


『手術』という言葉を聞いた瞬間、ユンの表情に緊張が走った。

 まるでそれが禁忌の言葉であるかのように口を噤み、それ以降、何を聞いても答えなくなった。


 暫くして、医務室から出てきた十萌さんは、首を振りながらわたしとソジュンに言った。

「お手上げね。恐らく、手術のことは口留めされている。高度な技術が必要な手術だから、絶対に背後に黒幕がいるはずなんだけど……」


 決勝戦が中断されてから、既に2時間が経過している。


 十萌さんの咄嗟の判断で、午後に行われるはずだった別のトーナメントを急遽前倒しで行い、決勝戦は明日に延期することで、ファンたちの混乱も一旦は収まった様子だ。


 ただ、ネットでは、ユンが倒れる衝撃のシーンが繰り返しショート動画として流され、拡散されていた。いずれ、正式な声明を出さなければ、世界のファンは納得しないだろう。


 ぐぅぅぅぅぅ。

 そんな緊迫した空気を溶かすかのように、突如隣のソジュンのお腹が鳴った。


「ご、ごめん」

 気まずそうにソジュンが言う。


 無理もない。


 ここまで、極限の集中力で、密度の濃い戦い(バトル)を繰り広げてきたのだ。

 きっとお腹の減りも速いのだろう。


 わたしはふと思い立って、ソジュンにこう提案した。

「トッポギ、食べに行かない?」


 **********


 幸い、昨日のおばちゃんは、同じ場所で屋台を開いていた。


「おや、昨日の日本の女の子じゃないか?」

 わたしがソジュンと一緒に席に座ると、すぐに気づいてくれた。


 トッポギを2人前頼むと、すぐに器いっぱいに注いでくれた。


 よっぽどお腹がすいていたんだろう。

 ソジュンは掻き込むようにトッポギを口に流し込む。


「ちょ、あんた、火傷するよ」

 おばちゃんが、笑いながら言う。


「う、美味(うま)っ!」

 ソジュンが熱さに顔をしかめながらも、目を見開いて言う。


「嬉しいねぇ。昔ながらの味のトッポギを、二日連続して、こんなにも美味しそうに食べてくれるお客さんが来るなんて」


 ソジュンが不思議そうに尋ねる。

「え? 昨日もここに来たの?」


「うん。あの、ユン・シヒョン一緒にね」

 ソジュンの箸から、ポロリとトッポギが落ちた。


「このトッポギをもう一度食べさせてあげたいの。彼女(ユン)に」


挿絵(By みてみん)


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