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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第20章:韓国・二つの想い【2030年1月30日】
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第287話:後の先

挿絵(By みてみん)


「え? ソジュンが負ける!?」

 わたしは思わず聞き返した。


「で、でもソジュンの能力値は、他の参加者よりも高いんですよね?」


 十萌さんは頷く。

「ええ。一番重要な脳波伝達の反応速度は、誰よりも上……とレポートを受けていたわ」


「そもそも反応速度って、どうやって測るものなんですか?」


「脳がコントローラーを動かすように脳波の指令を発してから、実際に指を動かすまでの時間をモニタリングするの。ソジュンは、0.006秒、つまり6ミリ秒と突出していた。他のトップクラスのプレーヤーでも8ミリ秒前後だから、ソジュンの反応はずば抜けていると言えるわ」


 ――ミリ秒なんて単位、初めて聞いた……。

 たぶんそれが短ければ短いほどいいのだろう。


「でもだったら、なんでソジュンが負けるんですか?ユンより速いはずなのに」


「レポートに書かれていたのは、対戦全体の平均スピードだったの。ユンの反応速度は、1~2本目は極端に遅く、3本目から一気に速くなっていた。そして3本目以降の試合に限定すれば、平均で0.4ミリ秒。単純計算で、ソジュンの1.5倍の速度ってわけ」


 ――「ユンの反応は、明らかに人間の閾値を超えている気がする……」

 ソジュンの言葉が脳裏を過る。


 彼もまたトッププレーヤーだからこそ、その差が分かったのだろう。


「私が見る限り、二人の操作技術はほぼ互角。なら、あとは反応速度の問題よ。1.5倍のスピードがあれば、十分に”後の先”を取れるように、あのゲームは設定されているから」


 後の先。

 それこそが、剣の達人としてのおじいちゃんが最も得意とした技だった。


 相手の次の動きを読み、攻撃へと移行するその一瞬前に、最善の一手を打ってくる。

 いわば究極の後出しジャンケンみたいなものだ。


「おじいちゃんの反応速度って、何秒くらいだったんですか?」


平均(アベレージ)でいえば、4.5ミリ秒よ」


 ――え!?


 わたし達が束になっても、手も足も出なかったおじいちゃんの反応速度さえも、超えているってことだろうか。


「それって、ほとんど人類最強ってことじゃないですか?」

 さすがに、絶望的な気がしてくる。


「反応速度だけ言えば、そうかもね。でも……」

 間を空けて、十萌さんが続ける。


「そもそも、おじい様の強さの本質は、反応速度(そこ)じゃないの。ソジュンが、試合中にそれに気づくことができれば、勝機はあるはずよ」


 ――そこまで分かっているなら、ソジュンに教えてあげればいいのに……。


 思わず口に出かけたそのセリフを、わたしはぐっと飲みこむ。


 十萌さんは、この大会の主催者側の人間だ。

 いくら付き合いが深くても、特定のプレーヤーに勝つためのアドバイスをしたら、他の参加者に対してあまりにフェアじゃない。


 そんなわたしの意図を察してか、十萌さんは優しく微笑んだ。


「言いたいことは分かるわ。でもこれは、ソジュンが自分で気づかなければいけないことなの。あなたが、少林寺で気付きを得ることが出来たようにね」


挿絵(By みてみん)

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