表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第19章:中国・過去と未来の交錯地【2030年1月6日】
280/291

第280話:分筋擒拿

挿絵(By みてみん)


「も、もう動けない……」


 アバターを回収するために、張家界の岩峰に降り立ったわたし達は、あおむけになりながら、空に瞬く北斗七星を見つめていた。


 張家界の夜の気温は零度に近い。


 けれど、その夜風さえも心地よいほどに、体が火照っているのが分かる。

 これもまた、気が全身に満ちていることの影響なのだろうか。


 この三日間、酸素ポッドでの睡眠と非常食を食べている時間以外は、ひたすら夢華との戦いに明け暮れていた。


 結局一度も夢華に致命的打撃(クリティカルヒット)は与えられなかったけど、それでも精魂尽き果てるまで、やりきったという実感はあった。


「二人とも、すさまじい進歩ですね。特に、反射速度の伸びが尋常じゃありません」

 パッドでデータをいじりながら、建峰が言う。


「ま、途中から少しづつ、打撃速度を上げていったからね。最後の三環套月は、生身の2倍の速度だったわ」

 夢華が身を起こしながら言う。


 ――え、そうなの?


「人間の反射神経っていうのは、そんなもんよ。初めて車を運転したとき、時速100kmでも速いと思ったのに、慣れれば200kmだって300kmだって平気になるでしょ?」


 言わんとしていることは分かる。

 とはいえ、300kmが平気なのは夢華だけだとは思うけど……。


 アレクもゆらりと身を起こすと、ゆっくりと夢華に近づいていく。

 そして、夢華の両肩を両の掌で掴んだ。


「は? なにすんのよ?」

 夢華の肘が、再びアレクの胸骨に突き刺さろうとする一瞬前。


「夢華、私と一緒に、スペインに来てくれないか?」


 珍しく照れたような表情で、アレクが言う。

「……その、両親を紹介したいんだ」


 ――え!? それって……。


 まさかの突然のプロポーズに、勝手にわたしの心拍数が跳ね上がる。

 ひたすらパソコンの画面を見続けていた建峰も、思わず目を上げた。


 夢華が、珍しく沈黙する。

 逡巡の表情がその横顔に浮かんだ――気がした。


 ただ、その口から出た言葉は、意外なものだった。

「スペインの人口ってどれくらいかしら?」


 唐突な質問に、怪訝そうにアレクが答える。

「5000万人くらいだと思うが‥‥」


「中国は14億人よ。私には、その未来を背負う義務がある」


夢華は、まっすぐにアレクの目を見ていった。

「災厄を前に、皆を置いて他国には行けないわ」


 言葉が出なかった。


 ――スペインの30倍、日本の12倍の人口を抱える、中国の未来を背負う。

 その重みは、この先も決して私たちには分からない気がする。


 明らかに落胆しているアレクの顔を見て、夢華は短く息を吐いた。


「あなたのことは、嫌いじゃないわ」

 そういって、夢華は、自らの肩に添えられたアレクの腕に、自分の手をそっと添えようとする。


 アレクの顔にわずかな希望に光が差す。


 次の瞬間。

 夢華が左手でアレクの右腕を掴むと、体全体を捻りながら沈ませる。


 その回転に巻き込まれ、一回り大きいはずのアレクの体がふわりと浮き、地面へと叩きつけられそうになる――。寸前、夢華がその腕をアレクの背と膝裏に回し、その体を抱きかかえた。


 ――!!!

 まさかの、夢華による逆お姫様だっこだった。


 彼女は、まるで王子様のような口調で言った。

分筋擒拿(ぶんきんきんな)の応用技よ。これくらいできるようになったら、(プロポーズ)の続きを聞いてあげる」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ