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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第19章:中国・過去と未来の交錯地【2030年1月6日】
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第279話:三環套月

挿絵(By みてみん)


 2030年1月28日 中国湖南省・張家界


 張家界での3日目の夜。

 わたしとアレクの体力は、既に限界を迎えつつあった。


 夢華と数時間戦い、体力と脳波力を回復させるために、ヘリの設置された酸素ポッドで身を休めては、再び戦いに身を投じる。


 さすがの夢華でも、二人同時に戦い続けるのは、想像以上にキツイはずだ。

 それなのに、弱音一つ吐かずに、少林寺の秘技を伝授し続けくれる。


 唯一ハイテンションなのは、データ分析に明け暮れている建峰だけだ。

 とはいえ、ほとんど寝ていないのは明らかで、その目は充血で真っ赤になっている。


「さぁ、いきましょう」

 夢華が酸素ポッドからゆっくりと起き上がった。


 VR機器を装着し、アバターに神経を連結させる。

 わたし達も、軋む脳と体を押して、アバターを操作し始める。


 三人が岩峰に降り立つと、夢華は言った。

「私が教えられる最後の型、七星拳よ」


 一月の夜空には、奇しくも北斗七星が煌めいていた。


 **********


 わたしとアレクは死力を振り絞って、夢華のアバターへと連撃を加える。

 朱飛に、そして夢華に教わった全てを込めて、”気”を載せた一撃を放ち続ける。


 最初と違って、流石に夢華にも余裕は見られなかった。

 始めは掠ることさえ難しかった技も、ガードの上からなら当たるようにはなってきた。


 それでも、致命傷となる一撃は当てられていない。


 脳波操作の疲労は、既に極限に達しており、動きも大分鈍くなってきた。

 恐らく、わたしもアレクも、次の攻撃が限界だろう。


 それを察したのだろう。

 夢華は、夜空を見上げながら、ゆっくり口を開いた。


「最後は、私の持つ最高の技で迎え撃つわ」


 風がそよぎ、雲が流れる。

 隠れていた三日月が夢華のアバターを煌煌と照らし始す。


「奥義、三環套月(さんかんとうげつ)


 その声とほぼ同時に、アレクの拳が、夢華の顔面に向かって振り抜かれる。


「第一環」

 そう呟いた夢華の右肘が、その軌道を外側から受け流しながら、鋭くアレクの人中を突く。


 ――喉が空いた。

 わたしは、素早い掌底で夢華の喉元を狙う。


「第二環」

 夢華の左腕が円を描き、わたしの掌底を巻き込むように受け止める。わたしの掌が夢華の腕に触れた瞬間、今度は、夢華の左肘が、内側からわたしの関節へと食い込む。


 だが、ここで終わるわけにはいかない。

 よろめきながらも、アレクは左拳を横薙ぎに打ち込み、わたしは右掌を下から上へと突き立てる。


「第三環」

 夢華の両腕が二つの円を描く。


 右手でアレクの拳を上から受け止め、その勢いのままにアレクの胸倉で肘で強打する。

 強化されているはずのアレクの胸板がへこむ。


 同時に、わたしの掌を下から払いのけると、左脚をほとんど垂直に突き立て、わたしのアバターの顎を蹴りぬいた。バリッという乾いた音とともに、わたしのアバターの頭部に火花が散る。


 ざぁっと突風が吹き、木々がざわめいた。

 雲間から三日月が顔を出し、夢華のアバターの横顔を照らす。


 わたしはなぜかそこに、龍門石窟の廬舎那仏の面影を重ねていた。


挿絵(By みてみん)

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