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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第19章:中国・過去と未来の交錯地【2030年1月6日】
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第275話:廬山の龍

挿絵(By みてみん)


 張家界の岩峰の真上の空から、ドアが全開放された巨大ヘリの中から、アバターを操作し、夢華と戦う。このほとんど意味の分からない展開に戸惑いながら、わたしは震える脚を、ぎゅっと握りしめる。


 緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。


 アレクが、軽い口調で話しかけてくる。

「大丈夫だよ。聖闘士星矢(セイントセイヤ)のドラゴン紫龍だって、似たような場所で奥義を体得できたんだから……」


 懐かしい名前に、思わず、星と一緒に夢中で復刻アニメを見た日々がプレーバックする。


「あれは張家界(ここ)じゃなくて、廬山(ろざん)だけどね」

 夢華が、少しだけ口元を緩ませて突っ込む。


「え、夢華、聖闘士星矢知っているの?」

「中国で一番有名なアニメの一つよ。私だって、子どものころは、廬山昇龍覇(ろざんしょうりゅうは)をマスターしようと、近くの滝で修行していたんだから」


 ――夢華が言うと、冗談も本気にしか聞こえない。


 けど、気が付くと足の震えは止まっていた。


「さあ、始めるわよ。アバターに脳波をリンクさせた上で、気を循環させなさい」


 目の前に並ぶ三体のアバター。

 建峰が、わたし達向けにカスタマイズしたというアバターは、確かにしっくりと来ていた。


三式島でも、鎌倉でも、夢華には一度たりとも勝てずにいた。


 ――せめて今日は、一矢報いたい。

 そう考えると、次第に闘志が湧いてくる。


「さあ、用意はいいわね?」

 ゾーンに入ったわたしとアレクが頷くと、夢華はアバターを立ち上がらせる。


 そのまま、開放されたヘリのドアの方まで歩いていくと、迷いもせずに言った。

「じゃ、跳ぶわよ」


 次の瞬間、夢華のアバターは、パラシュートさえつけずに、ヘリのドアから、ダイブしていた。


 わたしたちが思わず下を覗くと、十数メートル下の張家界の高峰に生える木々に向かって、夢華のアバターが急降下していく。


 ――ぶつかる!

 その腕はしなやかに枝を掴み、枝のしなりを利用してくるりと一回転すると、木の枝の上に器用に座っていた。


 今更ながら、彼女が少林寺を経て、雑技団で活躍していたことを思いだす。

 高所からのダイブは、彼女にとって日常茶飯事だったのだろう。


 ――け、けど、素人のわたしたちにとって、初手からこれはきつい。


 そんな様子を見ていた建峰が言う。

「夢華さんと同じことが難しいようでしたら、”人間用”の降下ロープを使っても構いませんよ」


 恋敵のその発言が、アレクの癇に障ったようだ。


「気遣い無用だ」

 そう言い放って、アレクは決然とドアからアバターを跳躍させる。


 そうして、引くに引けなくなったわたしのアバターもまた、宙に向かって紐なしのバンジージャンプをする羽目になったのだった。


挿絵(By みてみん)

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