第271話:開花
”からんっ”という音を立て、真っ二つに割れた木棍が、地面に落ちる。
「これが硬気功の正体だ」
「つまり、体内に取り込んだ気を、身体の一部に集中させることで、強化するってことですか?」
朱飛が頷く。
「ああ。気で、体を満遍なく包んだままでは、薄絹を全身に羽織っているようなものだ。だからこそ、防御、あるいは攻撃の部位に気を集中させることで、防御力や打撃力を格段に高めることができる」
わたしは、1週間前に夢華が見せてくれた、指による刺突を思い出した。
木の幹に深い穴をあけたあの攻撃もまた、指に気を集中させることでなしえたのだろう。
「夢華は、操気法を習得するまでにどれくらいかかったのですか?」
あの夢華のことだ。わたしよりも遥かに早く習得したに違いない。
けれど、朱飛の答えは意外なものだった。
「いや、かつて彼女はこの地では、結局操気法を習得できなかった。その器は十分にあったにもかかわらずだ」
――え、そうなの?
「確かに彼女の身体能力と武術の才は、突出している。だが、それと気を操る能力は、全く別ものだからな」
「え、でもここに来た初日、気を操って戦ってましたよね?」
朱飛の瞳の好奇の色が宿る。
「ああ。だからこそ、興味を持ったんだ。この地では操気法を会得できなかった彼女が、日本でどうやってその才能が開花させたのかにね」
――ああ、そういうことか。
わたしはようやく合点がいった。
「全部、おじいちゃんのお陰なんです」
わたしは、ちょっとだけ胸を張る。鎌倉でのあの修行を思い出しながら。
――「人も動物も鳥も木も、生きとし生けるものは全て、それぞれに波を発している。それに、自分の波を合わせればいいだけじゃ」
あの時の、おじいちゃんの言葉が脳裏を過る。
思えばこれは、”気の流れ”について言っていたのだろう。
おじいちゃんとの修行の一部始終を、朱飛に伝えると、彼は、半ば頷きながら、でも少し首をかしげるように言った。
「確かに、君たちの祖父の存在は大きいだろう。だが、夢華が変わったのは、君自身の影響もあるように、私には見える」
「え、それって、どういう……?」
正直、あの頃のわたしは、夢華の訓練相手にさえなっていなかった気がするのに……。
「本人直接に尋ねるといい。今は、己を高めることのみに集中しなさい」
そう言うと、朱飛は両腕に気を集中させる。
腕から、”気”の青い炎が立ち上っている。
「これからが実戦だ。二人同時にかかってくるがいい」




