第270話:循環する炎
「気を取り入れ、循環させる。それが次の段階だ」
そう言うと、朱飛は座禅を組みなおす。
「ゾーンに入って、私の体内の気の変化に目を凝らしてみろ」
わたしとアレクは、ゾーンに移行し、朱飛に意識を集中する。
朱飛は目を閉じると、何度も何度も深呼吸を繰り返していく。
――え?
わたしは思わず、目をしばたたかせた。
さっきまでも、薄らぼんやりとした光が朱飛の体を包んでいた。
けれども、彼が呼吸をするたびにその光は強くなり、やがて青紫の炎のように変化していったのだ。
「朱飛の体から立ち上っている炎、見えてる?」
アレクに尋ねると、彼は不思議そうな表情を受かべる。
「青い炎?」
彼は首を振ると、こう言った。
「私には見えない。ただ彼の体から、強烈な熱のようなものを感じ取っているだけだ」
「気を感じ方は人それぞれだ。視覚的に見える者もいれば、熱として感じる者もいる」
朱飛が言う。
「今、わたしは、この少林寺の龍脈に流れる気を、体内に取り入れ、循環させているんだ」
「その”気”って、そもそもどこから生まれているですか?」
わたしは、ずっと疑問だったことを口にする。
もし、気が龍脈を通って循環しているものだとして、そもそもそれは、どこから湧いてくるんだろう。
「あらゆるものが、ある種のエネルギー、つまり”気”を発してはいる。だが、ほとんどの場合、その源は太陽だ。だからこそ、太陽の活動が変化した場合、龍脈に多大な影響が生まれるんだ」
――そうか。
わたしはようやく合点がいった。
大半の人が否定する、地球の凍土化の話を即座に受け入れたのも、朱飛が毎日、地脈の発する気に触れ続けていたからなのだろう。
「”気”は、自らの体内に無尽蔵に貯められるものなのか?」
アレクが尋ねる。
「人にはそれぞれ器というものがある。器を超えた気は、やがて溢れ出してしまう。だからこそ、常に循環させる必要がある」
――このように、な。
そう朱飛が言ったとたん、全身から立ち上っていた気がゆらりと揺れた。
「あの木棍で、わたしを全力で突くがいい」
そういうと、道場に立てかけてあった木の棍を指さす。
わたしは棍を手に取る。
そして迷わず、朱飛の水月めがけて突きを繰り出した。
がんっ。
まるで、岩でも叩いたかのような感触が手を伝う。
よく見ると、朱飛の炎は彼の上半身に集まっていた。
次の瞬間。
炎は彼の右手へと流れ、炎が噴き出した。
「破ッッッッッ!」
”ばきんっ”という音を立て、木棍は真っ二つに割れていた。
朱飛が静かに言う。
「これが、硬気功の正体だ」




