第266話:龍脈
「"Dragon Line"、という言葉を知っているか?」
朱飛が英語で、わたしとアレクに尋ねる。
ドラゴンライン?
アレクは肯いたけど、わたしにはさっぱり分からない。
「はっ、そんなのも知らないでここに来たのかよ?」
志虎が憎まれ口を叩いてくる。
「日本語でいうと、龍脈ね」
夢華が補足してくれる。
「風水的な考え方なんだけど、地球のエネルギーや気の流れが集中する特別な場所のこと。それを、龍脈―つまり龍の通り道―と、昔の人は名付けたの」
わたしは、ふと過去の一シーンが脳裏をよぎった。
かつて、三式島で突発的な地震が起きたとき、夏美さんが手を合わせ、何かに祈りを捧げていたことあった。
――誰にお祈りしているの?
そうわたしが尋ねると、夏美さんは笑いながら答えてくれた。
「龍神様よ。地震が起こるのは、海底で龍神様が動いたからって、おばあちゃんから教えられてきたからね」
そのときは、「へぇ」と受け流していた。
でも思えば、あれもまた、龍を地球のエネルギーの象徴として捉える民間信仰だったのかもしれない。
志虎が、まるで自分のことのように自慢気に胸を張る。
「この嵩山は、中国の五大聖山の中でも、最も中央に位置している。だからこそ、自然のエネルギーが集中してるってことさ」
「五大聖山ってなに?」
志虎に聞くのはなんだか癪なので、サラに尋ねてみる。
「中国を象徴する五つの聖なる山で、風水的に龍脈で結ばれているとされているんだ。 東の泰山、西の華山、南の衡山、北の恒山、そして、その中央に位置するのが、この少林寺のある嵩山ってわけ」
――正直仕組みはよく分からない。ただ、この広大な中国の龍脈の中心と言われると、今更ながら、なんだかすごい場所な気がしてきた。
「万物は、エネルギーを発している。太陽も、地球自体もまた」
朱飛はそう言うと、暗闇に映し出されたままだった太陽系の3Dデータを指し、地球のそれを指で操作する。
ぐんぐんと縮尺が縮まっていき、中国の地図が映し出されると、やがてそれはわたしたちのいる嵩山へとフォーカスされる。
「そして、自然に人間にも当然エネルギーが流れている。それを感じ、取り入れ、操ることができるかは、資質と修行次第だがね」
朱飛はそう言って、わたしとアレクを見る。
「明日の朝、再びこの道場に来なさい。操気法の修行を始めよう」




