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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第19章:中国・過去と未来の交錯地【2030年1月6日】
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第260話:化身としてのアバター



挿絵(By みてみん)


「仏像って、なんだかアバターみたい……」

 廬舎那仏(るしゃなぶつ)を見ているうち、ふと、三式島でおじいちゃんが動かしていた、巨大アバターのことを思いだした。


 それを聞いた夢華が、わたしのことを見つめ返す。


「ご、ごめん。なんか不謹慎よね。仏様をアバターだなんて……」


 怒られるかと思って、ちょっと身構える。

 でも、彼女の反応は、意外なものだった。


「いや、むしろ正しいと思うわ。そもそもアバターって、サンスクリット語のAvatāra(アバターラ)――つまり、化身って意味だもの。インドでは、シヴァ神が地上に降りるとき、人や動物の姿(アバター)をしていたと伝承されているから」


「え、そうなの!?」

 ――てっきり、ゲームでユーザーが使うキャラを指しているのかと思っていた。


「ま、それも現代的な化身(アバター)の一つね」

 そう言って、廬舎那仏を見上げる。


「かつて、姿を完全に変えることは、神の特権だった。それが、デジタルの世界でいくつものアバターを持つようになり、さらには現実世界でも脳波でアバターを操れるようになるなんて、昔の人が見たら、神の御業だとでも思うかもしれないわね」


 淡々と話す夢華を見て、わたしはふと問うてみたくなった。


「夢華って、神様を信じてるの?」

 誰よりも自分に自信を持っているように見える彼女は、自分以上の存在を信じているのだろうか?


 一瞬、沈黙が流れた。

 そして、少しためらうように、彼女は口を開く。


「昔は、自分以外のものは信じていなかったわ。けれど今は、人知を超える存在を、否定しきれないとも思っている」


 アレクはピンと来ていないようだけど、わたしはなんとなく分かる気がした。


 わたしももともと、宗教を信じているわけではなかった。

 けれど、今は少し違う。


自己相似(フラクタル)構造は、人体にも、そして宇宙にも存在しているんだ」


 つい数日前、モロッコのバイア宮殿で、そう星が教えてくれた時――。

 わたしはふとこう思ってしまった。


 この世は、人が生み出した科学の常識では説明できないことが、あまりに多すぎる。

 そして、他者がそれを『神の御業』と呼んだとしても、何ら不思議はない気がする。


『練司さんが言っていた、一切即一(いっさいそくいち)――全体の中に個があり、個の中に全体があるという考えも、それに近いのかもしれないわね」


 そう言って、夢華は踵を返した。

「さあ、そろそろ行きましょう。少林寺に、その答えの一端があるかもしれないから」


挿絵(By みてみん)

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