第255話:脳波操作力
わたしは夢華に問う。
「まさか、あの変面のアバター、あなたが脳波操作していたの?」
夢華は汗をぬぐい、そしてワインを口に含んだ。
「ええ、そうよ」
人型アバターを操作して、あそこまで繊細な動きができるなんて……。
数か月前は、お互いぴくりとも動かせなかったのに、まさかここまで実力差が開いてしまったんだろう。
アレクも驚きを隠せない。
「変面は、相当な修行を積んだ人にしかできない技のはずだ。ましてやそれを、アバターでやるなんて、一体どんな魔法を使ったんだ?」
「簡単な話です。夢華さんは、″選ばれた人"ですから」
さっきまで太鼓を叩いていた、長髪の白化粧の男性が、突如口を開いた。
――え、誰?
そういえば、北京ダックを運んできた料理人はとっくに退室したのに、彼だけは部屋に留まり続けている。
「君は?」
アレクが、珍しく少し棘のある口調でいう。
「ああ、申し遅れました」
彼は頭の宝冠を外すと、一緒に黒髪もすぽっと外れ、下から短髪が現れる。
どうやら、宝冠と長髪のウィッグがセットになった被り物だったらしい。
彼が、その顔を濡れタオルでゴシゴシと落とすと、ようやく地の顔が顕わになる。
――あれ、この顔ってどこかで……。
知り合いではないはずだけど、うっすらと見覚えがある。
男は、明瞭な日本語でわたしに言った。
「リンさんには、一度ご挨拶させていただいたはずです。エチオピアのアディスアベバでね」
……あ、そういえば。
アフリカ連合会議のすぐ前に、どこからともなく現れて、自己紹介だけして風のように去っていった男がいた。
星が言うには、たしか世界で最も勢いのある、ロボット製造ベンチャーの創業者だった
「アレクサンダーさん、初めまして。天機科技のCEOの魏建峰です」
そう言って、アレクに握手を求める。
少し戸惑いながらも差し出されたアレクの手を、彼は両の掌で包みこみながら、こう言った。
「あの、変面のアバターは、私の会社が作ったものです。よろしければ、アレクサンダーさんの分もご準備しますよ。射手に特化したバージョンをね」
――どうやら、わたしたちのことを相当調べ上げているようだ。
ここで、夢華が口を開いた。
「十萌さんから、事情は聞いているわ。アバター操作、踊り場に差し掛かっているってね」
わたしは思いっきり首を縦に振る。
そもそも、中国に来たのも、踊り場から抜け出すためだ。
「そもそも、アバターの操作力というのは3つの要素の掛け合わせで決まるってこと、知ってた?」
夢華の問いに、わたしは首を振る。
「一つ目は操作者の能力、二つ目は増幅器の性能、そして三つ目が受け手としてのアバターの性能。この三要素のシンクロ率で、アバターの脳波操作力が決定するの」
――そうか。
だからこそ星は、増幅器の研究をしていたのだろう。
夢華が、建峰をちらりと見て言う。
「彼の会社のアバターの生産力は、世界でも群を抜いている。だからこそ、私とも限りなくシンクロ率を高められるの」




