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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第19章:中国・過去と未来の交錯地【2030年1月6日】
254/292

第254話:変面

挿絵(By みてみん)


 北京ダッグを運んできた料理人の後から入ってきた一人の男――。

 その”顔”を見て、わたしは危うく20年モノの紹興酒を吹き出しそうになる。


 ――鬼?


 朱と金で彩られた袖の長い伝統衣装をまとったその男は、鬼神を思わせる深紅の仮面をかぶっていた。

 眉は墨で大胆に跳ね上がり、金箔で縁取られた目は大きく吊り上がり、口元には鋭い牙が覗いている。


 わたしとアレクが、思わずその姿を凝視していると、今度は、宝冠をかぶり、白化粧を施した長髪の男が、巨大な太鼓を運び込んできた。


 男の太鼓をリズムを刻み始める。

 どこからか笛の音も聞こえる。


 すると、深紅の仮面の男は、袖から扇を取り出し、音楽に合わせ軽快に踊り始めた。


 男の袖が翻り、ほんの一瞬、顔を覆った刹那。

 その仮面は、優美な仙女の顔に変わっていた。


 淡い桃色の地に、繊細な銀の刺繍が桜の花弁のように散っている。眉は柳の葉のように細くしなやかで、目元は柔らかな曲線で縁取られている。


 ――え?何が起きたの?


 扇子が空を切る。

 男の仮面が、今度は老将軍のそれへと変わる。濃紺の地に、銀白の髭が堂々と描かれ、額には深い皺が刻まれている。


「これは……(Bian)(Mian)か!」

 アレクが興奮した表情で言う。


 (Bian)(Mian)

 わたしが問い返すと、アレクが言う。


「中国の四川発祥のオペラだよ。神業のごときスピードで、リズムに合わせ次々と仮面が変わっていくのが、変面の特徴なんだ」


 その言葉の通り、リズムがどんどん早くなり、そのたびに仮面が千変万化する。


 扇や袖で仮面が一瞬隠れた瞬間、次の仮面が現れるので、意識を集中しても、変化の瞬間を捉えることは難しい。


 男は、踊りながらテーブルの上に置かれた燭台を手に取ると、北京ダックに向かって、ふっと息を吹きかける。大炎が巻き上がり、チリチリとダックを焦がす。


 やがて、リズムが最高潮(クライマックス)に達し、太鼓と笛が、最後の一音を奏でた瞬間。

 最後の一枚の仮面が剝ぎ取られ、素顔が顕わになる――。


 ぶっっっ!!!


 今度こそ、わたしは紹興酒を吹き出してしまった。

 隣のアレクも、雲南省の高級ワインを危うくこぼしそうになる。


 仮面の層の一番下から現れたのは、生身の顔ではなく、青白い光を放つアンドロイドの顔だった。


 ゆったりした服を纏っていたので、全く気付かなかった。

 人間そっくり、いや人間にしては神業的な動きをしていたこの男は、実は、誰かが操作していたアバターだったということだろうか。


 わたしは、夢華の方を見る。

 部屋が薄暗かったので気付かなかったけど、その視線はアバターを一心に見つめ、額には一筋の汗が伝っている。


 ――まさか。


挿絵(By みてみん)

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