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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第18章:モロッコ・赤と青の世界【2030年1月3日】
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第250話:エベレスト超え

挿絵(By みてみん)


「全く、何やってんだよ。夜の砂漠を、何も持たずに彷徨うなんて。冬だからまだよかったけど、夏なら砂嵐(サンドストーム)に襲われる危険性だってあったんだからな」


 スマホの画面の向こうで、梨沙さんが呆れ顔で言う。

 その隣には、心配顔の十萌さんも映っている。


 わたしは、ひたすら謝り倒した。

 流石に二十歳にもなって、何の準備もせずに飛び出して、結局迷子で捜索されるなんて恥ずかしすぎる。


「まあ、こうして無事に帰ってきたからいいんじゃないかな?」

 アレクが、鷹揚になだめてくれる。

 ミゲーラをわたしの肩をポンと叩く。


 約1時間前。

 明らかに落ち込んでいるわたしを慰めようと、部屋に立ち寄ったアレクとミゲーラが、その不在に気付いて、緊急で十萌さんに連絡を取ってくれたらしい。


「でも、どうやってあんなにも早く、現地エージェント(ザカリアさん)を送れたんですか?」

 アレクの通報から、1時間以内にわたしを発見できるなんて……。


「ま、日本国の在外インテリジェンスネットワークも、捨てたもんじゃないってことだ」


 率直な性格の梨沙さんが、こうした曖昧な言い方をする場合は、たいていなんらかの機密が関わっている。これ以上は、聞かない方がよさそうだ。


「まあ、戻ってこれてよかったわ」

 十萌さんがほっとした顔でいう。


 京都の神道の名門の跡取りである彼女は、代々政治家を輩出している梨沙さんの実(水上家)家とも、深いつながりがあるらしい。


「ついでに、そちらの状況を教えてくれる?」

 十萌さんに促され、わたしは、シルバの『星の大地計画』について、二人に打ち明ける。


 砂漠にあんなに大きい施設を作っている以上、既に、梨沙さんや十萌さんの耳にも、ある程度の情報は入ってきていたようだった。


 だけど、その星が、このモロッコの宇宙開発基地で働くというニュースはさすがに驚いた様子だった。


 十萌さんが少し残念そうに言う。

「星くんには、これからも私たちの実験に協力してほしかったんだけど……。でも、本人がそこまで強く望むなら、止められないわね。あの年の子は、今が一番成長する時期だから」


 ――まるで、お姉さんのようなコメントに、少しだけ気持ちが和む。


「確かにあの才能は日本にとどめておきたい気もするが……まあ、賭けは分散したほうがいいしな」


「賭け……って?」


「今、日本国政府(我々)は、ローゼンバーグ家の計画に賭けて(ベットして)いる。だが、ヨーロッパ諸国を後ろ盾とし、世界の宇宙産業に強い影響を持つシルバ陣営の中枢に、日本人()が入り込むこと自体は、決して悪い話じゃない」


 わたしはチラリとアレクを見る。

 星のわたしへの告白のことは、あえて隠しておいた。


 了解した――というように、アレクは軽く頷く。


「あ、そういえば……」

 十萌さんが言う。


「一昨日、中国からのニュースが入ってきたの。夢華が脳波操作したアバターが、ついにエベレスト山頂に到達したって」


「え、エベレスト? それって、何メートルでしたっけ?」

「8848メートル。名実ともに、世界最高峰よ」


 今のわたしには、1500メートルが限界だ。

 ――わたしなりには必死に努力してきたつもりなのに、夢華は既に、5倍もの距離に到達しているなんて……。


 わたしは、三式島で夢華に一度も勝てなかった。

 その時より更に実力の差が広がった事実を前に、無力感がわたしを襲う。


 そんなわたしの気持ちを察したのだろうか。

 十萌さんがこう言った。


「どう、一度、夢華のところに行ってみない?壁を超えるための、ヒントが得られるかもしれないわ」


挿絵(By みてみん)

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