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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第18章:モロッコ・赤と青の世界【2030年1月3日】
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第247話:分岐点

挿絵(By みてみん)


「ちょ、ちょっと待って。さっぱり話が見えないんだけど……」

 わたしは、星とシルバの間に割って入る。


 ――Mars(火星)? Europa(エウロパ)? amplificati(増幅)on ?avatar(アバター)


「ああ、ごめん。説明するよ」

 シルバを真っすぐ見据えていた星が、ようやくわたしの方を向く。


「シルバさんが考えている移住計画は、月面だけじゃない。いずれは、火星、そして木星の衛星・エウロパにまでも基地を建築しようとしているんだ」


 そこまでは、わたしでも薄々と分かった。

 けれど、『アバター』や『増幅』といった下りが全く分からない。


 シルバが言葉を継ぐ。

「月面も、火星も、そしてエウロパも、最低気温がマイナス100度を下回る極寒の世界だ。生身の人間では、何百年かかっても、大規模な基地建築などできやしない。だが、アバターを脳波で遠隔操作できるなら話は別だ」


「で、でも、そんな遠くまで脳波を飛ばすなんて……」


 今のわたしでは、2000メートルが限界だ。最寄りの月でさえ、その約2万倍の3800万キロもある。今後、修行を積んで多少は距離が伸ばせるにしても、ほとんど絶望的な距離だ。


「そのための、増幅モジュールなのだよ」

 シルバが言い切る。


「現時点でも、地球の周辺には5万機を超える人工衛星が飛んでいる。そのあらゆる衛星に、脳波の増幅モジュールを搭載することで、脳波を増幅させ続けて、月面にまで届かせるって仕組みさ」


 わたしは、三式島での出来事を思い出す。

 確かに悠馬は、何らかの方法で、わたしたちの脳波を増幅させることができた。


 もしその増幅方法をモジュール化して、宇宙を飛ぶ人工衛星に組み込むことができれば、理論上は確かに、月までも届くのかもしれない。


「月面基地さえ建築できれば、そこを起点に、さらに多くのモジュール化衛星を発射できる。そうすれば、やがて人類は火星に、そして木星までへも辿り着ける」


 星は熱弁を振るう。

 普段の冷静で理知的な姿はなりを潜め、そこには衝動に突き動かされる一人の少年の姿がいた。


「僕の中で、既に、増幅器のモジュール化の基礎理論は構築できている。でも、実地実験なしに、実用レベルにまで持っていくのは不可能なんだ。だから、僕はここに残って実験を続けたい」


 ――でもそれは……。

 わたしは、口を開こうとして、言葉を飲み込んだ。


 シルバが髭を撫でながら、その言葉を代弁する。

「俺としては、むろん異論はない……。だが、ローゼンバーグとは、道を分かつことになるかもしれんぞ」


 ――そう、なのだ。

 EU宇宙開拓軍を率いるシルバの想い描く未来は、カイたちが描く双子の地球(それ)とは明らかに違う。


 道が分かれるだけならまだいい。

 でもその道同士が、やがて正面からぶつかってしまったら――。


 けれど、星は揺るがなかった。

 その瞳には、決意の光が宿っている。


「かつて、シルバさんが言った通りです。人類の生存の為の選択肢は多い方がいい――と」


挿絵(By みてみん)

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