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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第18章:モロッコ・赤と青の世界【2030年1月3日】
242/291

第242話:青の真珠

 挿絵(By みてみん)


 2030年1月5日 モロッコ・シャウエン


 ――まるで、海の中にいるみたいだ。

 モロッコ北部の都市・シャウエンに一歩足を踏み入れた瞬間、異世界に迷い込んだ気がした。


「シャウエン(この街)は、″青の真珠”と呼ばれているんだ」


 それも頷ける。

 この街は、あらゆるものが青い。


 建物だけじゃない。壁から階段に至るまで、青に埋め尽くされている。


「なんで、こんな街を作ろうと思ったんだろう」

 わたしが思わずそう呟いたほど、この景色は現実離れをしている。


「15世紀、スペインから逃れてきたユダヤ人難民が、彼らにとって神聖な色の青を家や通りを塗った――。そう言われているんだ」


「ユダヤ人?でも、モロッコってイスラム教国だよね?」


 星が、裏通りに歩を進めながら言う。


「当時のスペイン王は敬虔なカトリック信者で、スペインに居住するユダヤ人に、『キリスト教への改宗か、あるいは追放か』の選択を迫ったんだ。そこで彼らは、当時イスラム教国でありながら、他宗教に寛容だったこの地に移り住んできたと言われているんだ」


 ――そうなんだ。

 一口に〇〇教といっても、多宗教への寛容度や関係性は、時代や国によって大きく異なるということなんだろう。


 不意にどこからか、「にゃぁぁぁ」という声が聞こえてきた。

 目をやると、青い壁にかけられたアートに溶け込むように佇む猫が、じっとこちらを見つめている。


「この猫もまた、アートの一部みたいだね」

 ミゲーラが言う。


 よく見ると、どこか日本の猫っぽいビジュアルをしている。

 彼の祖先もまた、どこかの大陸から渡ってきたのだろうか。


「猫の世界には、宗教対立なんてないんだろうね」

 わたしは、思わず呟く。


 こんなにも世界を細分化させて、対立を生み出すのは人間くらいだろう。


 わたしはバックを漁って、干し肉(ジャーキー)を手に取り、猫の顔に近づける。

 彼はそれをくんくんと嗅ぐと、ぷいっと顔を背けた。


 やがて、さっきと全く同じ格好で微動だにしなくなる。


「もしかしたら、猫の世界にも干し肉(ジャーキー)派とか、煮干し(ドライフィッシュ)派とかの対立はあるのかもしれないね」

 そう言ってミゲーラが笑う。


 確かに、生き物である以上、『好み』の違いからは逃れなれないのかもしれない。


「でも反対に、『好き』が団結(ユナイト)を加速させるこもあると思うんだ。例えばアニメとかでね」

 ミゲーラが言う。


 ミゲーラは、かつてアニメにはほとんど関心がなかったそうだけど、わたしと星があまりに執拗に薦めたせいで、最近見始めたそうだ。今のお気に入りは、『宇宙兄弟』らしい。


「ある意味、アニメは多神教みたいなものかもしれないね。一人ひとりにとっての”神アニメ”が、それこそ八百万(やおよろず)の神ほどに共存しうる世界だから」


挿絵(By みてみん)

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