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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第18章:モロッコ・赤と青の世界【2030年1月3日】
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第239話:フラクタル

挿絵(By みてみん)


「僕たちの人体や、宇宙にさえも、幾何学が存在しているんだ」


 ――人体が?


「僕たちの神経ネットワークなどはフラクタル構造なんだ。人体の血管系、肺の気管なんかもね」


「フラクタル構造って……?」

 話についていけない予感が漂ってきた。


「フラクタル構造は、自己相似性――、つまり全体の形状が部分の形状と似ていて、拡大しても縮小しても似たようなパターンや構造がみられるという、幾何学的パターンのことだよ」


「でも、なんでそうなっているの?」

 分からないなりに、何とか食いついていく。


 星が自らの手を、天にかざしながら言う。

「人体という、″()()()()()()”で効率的に、酸素や栄養を運搬するために最適化された結果、そうなったと言われているんだ」


「けど、無限のはずの宇宙は何で?」

 ミゲーラも話に乗ってくる。


「残念ながら、宇宙がフラクタル構造をしている根源的理由は、現在科学ではまだ未解明なんだ。でも、もしかしたら、シルバやアレクの研究が、そのヒントをくれるかもしれない」


 星は、天井の幾何学文様に目をやりながら、期待に満ち溢れた表情でいう。

 その目は、まるで宇宙のどこかを見つめているようだ。


 そんな星を見て、わたしの胸に、一抹の寂しさが去来する。


 長い間、星に片思いをしていたから分かる。


 わたしを見てくれているときの星は、限りなく優しい。

 けれど、ときどき、ほとんど自動的に、彼の眼は、宇宙のように広い視点に移り変わってしまうことがある。


 それは、グーグルアースで、衛星から地球全体を俯瞰したときように、一人の人間(わたし)のことなんて視野の片隅にも入っていない。見えているのは、地球であり、総体としての人類なのだから。


 それは、きっと究極の博愛なんだろう。

 だけどわたしは……。


「美しい……」

 隣のミゲーラが、感嘆のため息をつき、わたしははっと我に返る。


 陽光がステンドグラスを透過し、赤、青、オレンジ、緑といった色とりどりの幾何学紋様を、精緻な細工が施された扉や床に描き出している。


 幾何学文様が幾重に重なっている様を見て、わたしはぼんやりと思う。


 ――この日の光もまた、宇宙から来ているんだ。


 もし本当に、人体も宇宙も、同様の構造をしているとしたら……。

 ″この世界を創造した何か”は、一体、何を意図しているんだろう。その壮大な仕組みの中で、ちっぽけなわたしに、一体何ができるんだろうか。


挿絵(By みてみん)

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