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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第18章:モロッコ・赤と青の世界【2030年1月3日】
237/292

第237話:ジャマエルフナ市場

挿絵(By みてみん)


「ここがマラケシュ最大の夜市、ジャマエルフナ市場だよ」


 ――まるで、市場全体が生き物みたいだ。


 オレンジの光と喧噪に包まれた市場を見ながら、なぜかわたしは、そう感じていた。


 屋台から立ち上る香辛料や、えも言われぬ肉の香りが空気を満たし、鼻腔をくすぐる。

 心臓に響く太鼓のビート、蛇使いの笛の旋律、何かの詠唱が交錯し、音の洪水が耳を捉える。


 言葉は全く聞き取れないけど、それでも耳を澄ますと、「ケバブ!」とか「タジン!」いう物売りらしき声がわたしたちに向かって飛び込んでくる。


 ――ケバブは分かるけど、タジンって何だろう……?


 そう考えていると、そのうちの一つの屋台の物売りと星が話始める。

 どうやら、値切り交渉を行っているようだ。


 旅慣れているというのもあるんだろうけど、星の交渉は本当にうまい。

 外国人とみるやぼったくり価格を提示する国多い中で、彼は現地の言葉を交えたり、時に帰るそぶりを見せながら、巧みに交渉を進めていく。


「市場での交渉は、険悪な雰囲気になってからが勝負なんだ。それが最低ラインに近づいてきた印だからな。逆に言えば、そうならない交渉は大概ぼったくられてるってことだ」


 エジプトとサウジで同行してくれた首相秘書官、梨沙さんの言葉を思い出す。


 だいぶ時間をかけて、笑顔で相手と手を握った星が、わたしたちを、奥へと案内してくれる。

 小さな木のテーブルに座ると、すぐに円錐形の陶器のような鍋が運ばれてきた。


「これがタジン鍋。モロッコの伝統料理なんだ」


 テーブルの上には、湯気を立てるつややな色彩の鍋が、次々と置かれていく。

 円錐形の蓋を開けると、クミンとコリアンダーの濃厚な香りがふわりと広がり、鶏肉とレモン、オリーブが色鮮やかに煮込まれた料理が姿を現す。


 木製でスプーンで一口に含む。

 柔らかい鶏肉と酸味の効いたレモンの風味が舌の上で溶け合う。


「何これ、美味っ!」

 ミゲーラが思わず口にする。


 わたしも全く同感だった。

 スパイスの奥深さと野菜の甘みが混ざり合った味わいは、今まで味わったことのない類のものだった。


 屋台のオヤジが「もっと食え!」とばかりに、笑顔で追加のナンを差し出すのに応えて、夢中で食べ進める。


 隣では、観光客相手の蛇使いが笛を吹いている。

 リズムに合わせて、蛇たちが上体をくねくねと動かしている。


 まるで、絵本の一ページに入り込んでしまったかのような、不思議な感覚に囚われながら、赤の都市での一日目の夜は更けていった。


挿絵(By みてみん)

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