第235話:星の大地計画
「星の大地……計画?」
わたしは、その全く馴染みのない言葉を反芻する。
「それって、国際宇宙ステーションのことですか?それとも、月面移住計画まで視野に入っているんででしょうか?」
隣で話を聞いていた星が、身を乗り出してくる。
「もちろんだ。だが、それだけじゃない」
シルバが頷く。
なんだか、話が壮大すぎる方向に進み始めてきた。
「で、でも、それって、間に合うんですか?」
氷河が地球を覆い始めるまで、あと10年もないのだ。
いくら宇宙技術が進歩しているとは、それまでに、いきなり宇宙への移民が実現するとは到底思えない。
「普通にやれば、無理だろうな」
シルバが認める。
「じゃ、どうやって……」
わたしの問いに、シルバが、ニヤリと笑った。
「それは、自らの眼で確かめてみるといい」
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2030年1月3日
翌朝。
わたしと星、ミゲーラ、そしてアレクの4人は、リスボンの空港に舞い戻っていた。
「まさか、こんな展開になるなんてね……」
わたしが呟く。
シルバが言う。
「なに、大した距離じゃない。こいつを使えば、1時間で到着する」
朝の光を浴びて、銀色に輝くプライベートジェットを、親指で指す。
「ボンバルディア・グローバルの最新鋭機ですよね。最高速度がマッハを超えるっていう……」
星が目を輝かせる。
というより、「星の大地計画」を聞いて以来、星の目はきらめきっぱなしだ。
メカとロボット好きの彼にとって、その技術の粋を集めた宇宙コロニーみたいな話は、大好物なのだろう。
「ちょうど次の実験が、3日後にあの場所で行われる。俺とアレクは、先に現地に入って実験の準備をしてくるから、それまで君たちは、赤の都市と青の街でも観てくるといい」
そう、わたし、星、そしてミゲーラの三人に言う。
――赤の都市と、青の街?
明らかに通称だけど、一体どこなんだろうか?
わたしが星の方を見ると、彼はにっこりと笑い返す。
「そこに降り立てば、すぐに分かると思うよ」
「出発だ」
シルバに促され、わたしはボンバルディアに乗り込む。
そういう彼は、自ら操縦席へと乗り込む。
海軍で戦艦を指揮してたとはいえ、まさか飛行機までも、彼自身が操縦できるなんて、思ってもみなかった。やっぱり、新たな大航海時代を創ろうとする男は、常人とは運動神経が違うんだろう。
機内のスクリーンが目的地を告げ、ようやくわたしはその場所を知る。
「To Morocco」
こうして、わたしたちのモロッコへの旅は、突如始まりを告げた。




