第234話:スペースコロニー
「宇宙に奪られるなら、まだ耐えられる。けれど、他の女に盗られるくらいなら、今すぐ殺してやる」
――え、そういうこと!?
どうやら、目の前の美女は、わたしを恋敵かなにかと勘違いしているようだった。
「ちょ、ちょっと待って。それって、誤解……」
わたしが釈明しようとすると、美女はぴしゃりと言う。
「あんた自身がどう思っているかなんて、関係ないわ。昨晩の占星術にも出ていたの。今夜、この人の前にThe Fatesが姿を現すってね」
――せ、占星術?
それが理由で、いきなり見ず知らずの他人にワインをぶちまけようとしたんだろうか?
シルバが、当事者なのにどこか面白そうに、火に油を注ぐようなことをいう。
「運命の人か……。まあ、確かにそう言えるかもしれないな」
今度こそ、美女の怒りは沸点に達したようだ。
その真っ赤なネイルを猫のように立てて、シルバの顔に突き立てようとした。
シルバが椅子から立ち上がり、美女の一撃を避ける。
そしてそのまま彼女の腰に手を回し、まるでダンスでもしているかのように彼女の体を後ろに傾ける。
眼を見開いた彼女が何かを言おうとする前に、シルバはその唇を彼女のそれに重ねる。
それは、見たことないほどに長いキスだった。
始めは抵抗していた彼女の体はやがてシルバに委ねられ、その手がシルバの背中に回る。
背中に、そのネイルが食い込む。
熱い愛情表現を目の当たりにしたせいか、あるいは赤いワインのせいなのか、体が微妙に火照ってきた。
ようやくその唇を彼女から離すと、シルバは言った。
「レオノーラ。俺の女神は、お前だけさ。彼女は、人という種にとっての女神なんだ」
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レオノーラがステージに戻ると、ようやくテーブルは落ち着きを取り戻した。
「で、どうして、アレクがここにいるんですか?」
わたしはシルバに尋ねる。
「ああ。アレクは、オリンピック以来の盟友でね。彼が建築家になった後は、地球外居住地のグランドデザインを描いてもらっているんだ」
スペースコロニー?
一瞬でガンダムを想起させるその言葉に、思わずアレクの方を見る。
一体、彼は何を企んでいるんだろうか。
彼は、手慣れた手つきで、自分のグラスになみなみとワインを注ぐ。次いで、空になったわたしのグラスを赤い液体で満たす。
そのグラスをわたしに手渡しながら、アレクはこう言った。
「人類生存のための選択肢は、多い方がいい。一つは、ローゼンバーグ家の、双子の地球計画。そしてもう一つが我々主導の、Tierra Estelar――。通称、”星の大地”計画だ」




