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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第17章:ポルトガル・新大航海時代【2030年1月2日】
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第233話:ポルトガルの涙

挿絵(By みてみん)


 深紅の美女が謡うファドが、バーの空気を満たす。


 歌詞は全く分からなかったけれど、切なく、懐かしく、それでいて微かな希望を感じさせるような不思議な音楽だった。


 その歌手は、曲の最中、ずっとわたしたちの方を見続けていた。

 その視線の先には、シルバがいた。


 歌そのものが、彼への何かのメッセージであるかのように。


 わたしはサラに頼んで「Mar Portugu(ポルトガルの海)ês」という曲を探してもらう。


 ーーーーーーーーーー


 ああ、塩に満ちたこの海よ。あなたの塩のどれほどがポルトガルの涙なのか!

 あなたを渡るため、多くの母が泣き、幾人もの子が空しく祈った。


 幾多の花嫁が嫁がず残された。

 ただ、あなたが我々のものとなるために。おお海よ!


 それだけの価値はあったのか?

 ああ、全てにその価値がある。

 魂さえ小さくはないのなら。


 ボジャドール岬を越えんと欲する者は、痛みをも越えねばならない。

 神は海に危険と深淵を与えた。

 だが、そこにこそ天を映したのだ。

 ーーーーーーーーーー


 曲が終わると、バーの中で拍手が沸き起こる。

 わたしも同じく、大きく手をたたく。


 それくらいその曲には、人を動かす何かがあった。


 すると、彼女が、きっとした視線を、わたしに向かって投げかけてくる。

 その瞳には、怒りに似た感情が込められていた。


 ――え、わたし、あの人に何かした?


 わたしが戸惑いの表情を浮かべると、彼女はわたしたちの方に向かってすたすたと歩いてくる。

 赤いドレスの裾がひらりと舞う。


 彼女はまず、シルバの前に立つと、いきなりその頬を平手で打った。


 ――え、何?


 わたしが呆気に取られていると、彼女はテーブルの上のワイングラスを取ると、わたしに向かって、赤ワインをぶちまけた――かに見えた。


 実際は、すんでのところで、アレクが彼女の手からワイングラスを奪い取ったからだ。


「良いワインは、美女と味わうものさ。浴びるものじゃない」


 相変わらず、真顔で気障なセリフを言う。

 つい三か月前も、夢華に対し、あらゆる麗句を使って口説いていた。


 あの時の夢華の塩対応を思い出し、わたしの口元が少し緩む。

 それが彼女の癇に障ったのかもしれない。


 彼女は、怒りを肩に震わせながら、こう言った。

「宇宙に()られるなら、まだ耐えられる。けれど、他の女に()られるくらいなら、今すぐ殺してやる」


挿絵(By みてみん)

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