第229話:同君連合
「もし氷河期が訪れたら、欧州全土が凍る――。そうなのだろう?」
シルバがわたしたちに尋ねる。
わたしたちは無言で頷く。
「では、アフリカやブラジルは、私たちを移民として受け入れてくれると思うかね?」
「そのために、今、風間首相が動いています」
星が、海水の淡水化技術と引き換えに、移民政策を推し進めようとする風間首相のプランを、シルバに伝える。
「ああ。その話は聞いている。日本というのは何とも不思議な国だな。自分の国も凍り付こうとしているのに、遠い欧州の民を心配するとは……」
そういうとシルバは、足元のボールをひょいっと右足で空に上げると、人差し指の先でくるくると回転させた。
「だが、プライドの高いヨーロッパの民は、他の大陸から情けをかけられることを良しとしないだろう。アメリカが世界の実質的な覇権を握って百年が経とうとしているにもかかわらず、いまだに歴史の短さを嘲るような奴らだからな」
英雄と呼ばれる男に、あまりに似つかわしくない自虐的なセリフだ。
「で、でも、このポルトガルだって、ヨーロッパの一部ですよね?」
「ああ。だが、この国の落日は、どの欧米列強よりも早かった。ヴァスコ・ダ・ガマが希望峰に降り立って百年も経たないうちに、没落が始まったのだから」
「1580年のスペインとの同君連合ですね?」
星が問い、シルバが頷く。
――どうくんれんごう……って?
怪訝な表情を浮かべる私に、星が解説してくれる。
「うん。当時のポルトガル王、セバスティアン1世がモロッコで戦死し、王位継承者が不在になったんだ。そこで、スペイン王フェリペ2世がポルトガル王位を継承した。それ以降、ポルトガルは海洋覇権をスペイン、そしてオランダや英国に奪われていったというわけさ」
「え?どうして!?」
いくら王位継承者がないからって、どうして隣国のスペイン王が継承できるのかが分からない。
シルバが言う。
「フェリペ2世は、ポルトガル王ジョアン3世の娘イザベルを通じて、ポルトガル王位に血縁上の権利を持ってたんだ。だが、それ以上に、スペインの政治力がポルトガルに勝っていたってことさ。なんせ、当時のポルトガルは100万人しかいなかったんだからな」
「100万人!? たった、それだけだったんですか?」
わたしは驚いた。いくら当時は人口が少なかったとはいえ、今の日本の百分の一の人口の国が、一時期とはいえ、世界の海洋覇権を握っていたなんで……。
「ああ。そこが、大戦までは世界の中心にいた欧米列強とは違うところだ。だからこそ、我々は新たなフロンティアを開拓しなければならない。宇宙という、人類最後のフロンティアをな」




