表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第17章:ポルトガル・新大航海時代【2030年1月2日】
228/293

第228話:スタジアム

挿絵(By みてみん)


「このスタジアムは、ついこの間、落成式を終えたばかりなんだ。だから、このVIPルームの鍵を持っているのは、オーナーの俺だけってわけさ」


 真新しいサッカースタジアムの、ピカピカのVIPルームの鍵を開けながら、シルバが誇らしげに言う。

 どうやら、彼の言った「絶対に邪魔されない場所」というのは、ここのことらしい。


 サッカー王国、ブラジル出身のミゲーラが言う。

「こうした部屋は、普段、国賓の接待や、非公式の外交の場に使われるんだ」


「そもそも、サッカーというのは、”代理戦争”みたいなものだからな」

 シルバの身もふたもない言い方に、少し驚く。


 ――たしかに、ときどき、フーリガンが暴れて死傷者が出たという海外のニュースが流れてくることはあるけど……。


「なんでそこまで――という顔をしているな」

 シルバが、少し考えて言う。


「あそこに立ってみれば分かるさ」

 そう言うと、シルバはVIPルームの奥の方へと歩いていく。


 壁に嵌めこまれた小さなディスプレーを、シルバが見つめると、緑色の光が放たれ、すぅーとドアが開いた。三式島の研究所にもあった、虹彩認証だろう。


 とりあえず、わたし、ミゲーラ、星がシルバの後についていく。

 薄暗いトンネルのような通路を、緩やかに下っていくと、不意に目の前が明るくなる。


 眼前に広がっていたのは、さっきまでVIP席から見下ろしていたサッカーフィールドだった。

 真新しい芝に足を踏み入れる。


 綺麗に借り揃えられた芝の上に、カラフルなボールが置かれている。

 各国の旗があしらわれている、特注のボールだ。


 ――サッカーのフィールドって、こんな広いんだ。

 今まで映像でしか見たことがなかったけど、実際にその場所に立つと、その広大さが際立つ。


 「戦争はルールがない。だが、サッカーにはルールがある」


 シルバがそれを右足で巧みに操ると、青空に向かって思いっきり蹴り上げた。

 宙を舞っていた鳥たちが、驚いたかのようにその陣形を乱す。


 ボールはまるで吸い込まれるかのように、寸分違わず足元へと落下し、彼が音もなくトラップする。

 「そして、敵対国であったとしても、相手の美技に酔いしれることさえある。ちょうど2023年のアルゼンチン対フランスの決勝戦がそうであったように」


 確かに、戦争において相手の美技を称えることなどありえない。


 「どうして、サッカー選手を、そして海軍をも辞めて、宇宙開発ベンチャーを創ったのですか?」

 星が尋ねる。


 かつてサッカーのナショナルチームを統率していた彼が、海軍に転身し、やがてフリゲート艦を指揮するようになったと、サラが教えてくれた。


 そして今は、欧州最大の宇宙関連企業を統べているのだから、この地で皆が彼を英雄扱いするのも頷ける。


「もう我々には、代理戦争を行う余裕さえ残されていない。そうだろう?」

 シルバはボールを前方に向けて蹴った。


 どごぉん、と音がし、真新しいゴールのポスト直撃する。

 跳ね返ったボールが再び、彼の足元に戻ってくる。


「今必要なのは、この欧州を新たな地へと導く存在だ」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ