第227話:EU宇宙開拓軍
「大航海時代、ポルトガルは、ヨーロッパと新世界を繋ぐ扉だった。だからこそ、多くの英雄たちがこの地に集まったんだ」
燃えるような瞳でシルバが言う。
「俺はこの場所を、”新たなる始まりの地”にして見せる」
チアゴの大統領の言葉を思い出す。
「彼は、宇宙の新秩序を作りたいと考えているんだ」
正直、そう聞いたときは全くイメージが湧かなった。
スケールが大きすぎて、とても現実的だとは思えなかったからだ。
そんな気持ちを代弁してか、星がストレートに尋ねる。
「一体どうやって?」
たしかにポルトガルが大航海時代を切り拓いていったのは、歴史の事実だ。
けれど、今とはなっては、人口1000万人の小さな国にすぎない。人口だけでいえば、かつて支配していたブラジルの二十分の一なのだから。
彼はきっぱりと言い切った。
「第一歩は、EU宇宙開拓軍の創設だよ。俺は、その総督になるつもりだ」
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「EUの、宇宙開拓軍?」
突拍子もない発想に、わたしは思わずオウムのように問い返す。
けれど、星は何かをひらめいたようだ。
「それは、”EU Space Strategy for Security and Defence”の延長戦上ですか?」
――う、宇宙防衛戦略?
馴染みがなさすぎる単語の登場に、サラにこっそり尋ねる。
「ロシアーウクライナ戦争を発端に立てられた、宇宙の軍事化対応や、宇宙資産の保護なんかを目的としたEUの宇宙戦略だよ。23年11月にEU理事会に承認されているんだ」
シルバは笑う。
「あれは、あくまでも地球目線での議論だよ。まあ、あれが、俺の計画を加速させてくれはしたがな」
そこまで話すと、彼は、周囲を見渡した。
遠巻きに、彼を見つめているファンが集まってきているようだった。
かつてサッカーの代表選手にも選ばれ、今では、世界が注目する宇宙産業の雄である彼は、一般の人たちにまでその顔が知れ渡っているらしい。
「ここは人目が多すぎるようだ。詳しいことは、別の場所で話そう」
おもむろに彼はスマホを取り出し、ポルトガル語で何かを話した。
どうやら、運転手か誰かに電話をしたらしい。
電話を切ると、彼は言った。
「絶対に邪魔が入らない場所に案内しよう」




