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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第16章:ブラジル・未来世紀の覇権国家【2029年12月30日】
225/291

第225話:カウントダウン

挿絵(By みてみん)


 2029年12月31日 23時30分


「ここが、サンパウロで一番、カウントダウンの花火が綺麗に見える場所なんだ」


 そう言ってミゲーラが連れて行ってくれた場所には、浴衣姿の十萌さんが待っていた。人込みの中でも、ひときわ目立つ優美な後ろ姿だ。

 

 本当はもう少し早くジャパンタウンで合流するはずが、政府要人との会食が押しに押してしまったらしい。


 わたしが声をかけると、振り向いた十萌さんが、「お待たせ!」と言ってわたしの腕に手を回してくる。


「今日一日、どうだった?」

「正直、まだ感情が置いついてきていないんですけど……」

 わたしは、ミゲーラの家で、そしてジャパンタウンでの出来事について、ぽつりぽつりと伝える。


 文江おばあちゃんが話してくれた、かつてサンパウロの日系人コミュニティーで起こった”勝ち組”と”負け組”の血みどろの争いは、衝撃的だった。


 かつてペルーで起こった、ピサロによるインカ帝国の壊滅は、まごうことなき悲劇だ。

 けれどもそれは、ある意味で理解しやすい対立の構図だった。


 すなわち、外敵であるスペインが原住民を支配したという、歴史上何度も何度も起こってきた、支配者と被支配者の関係性だ。


 けれども、日系移民たちの”勝ち組”と”負け組”の一件は、明らかにそれとは違う。

 食うに困って、半ば日本から追われるようにブラジルに来た人たち――つまりは弱者同士――が、加害者と被害者に分かれてしまったのだ。


「『正しさ』が何なのか、どんどん分からなくなってきた気がします」


 歴史を知れば知るほど、深く入り込めば入り込むほど、一義的な正義など存在ないことに気付かされる。むしろ、悪名をとどろかす人ほど、実は『自分なりの正義』を強く持っているように気さえしてくる。


 ――そうでなければ、航海技術が未熟な数百年も前に、命がけで大航海に乗り出そうだなんて思わないはずだから。


 十萌さんは、こんなわたしのとりとめもない話を、しっかりと目を見て、ときに頷きながら聞いてくれる。


 気が付くと、あたりが騒がしくなっていた。

 時計に目をやると、11時58分を指している。


「そろそろカウントダウンが始まるよ!」

 ミゲーラが声をかけてくる。


 周囲のみんなの大合唱が始まる。


Dez(デス)Nove(ノーヴィ)Oito(オイト)!」

 ポルトガルでの10、9、8らしきカウントダウンが始まる。


sete(セッチ)‼, seis(セイス)‼, cinco(シンコ)‼, quatro(クアトロ)‼」

 7、6、5、4と、その声が次第に大きくなる。


três(トレース), dois(ドイス), um(ウン)!!!」

 夜空に無数の花火が上がった。


「Feliz Ano Novo! (明けましておめでとう!)」

 爆発的な歓声が上がり、周囲のみんなが次々にハグし始める。


 わたしも、星とミゲーラ、そして十萌さんと抱き合った。

 花火で描かれた、”YEAR 2030”の文字が、サンパウロの夜空を彩る。


 世界の運命を永遠に変える10年が、今、始まろうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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