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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第16章:ブラジル・未来世紀の覇権国家【2029年12月30日】
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第219話:海の向こうの除夜の鐘

挿絵(By みてみん)


「え? 今からサンパウロに!?」

 すでに時計は夜の10時を回っている。


「うん、明日は“ビッグなミソカ”だからね。家族全員で集まって、オセチ料理を作るんだ」

 ビッグなミソカとやらが、大晦日を指していることに、少し遅れて気づく。


「それに、朝起きたら、NHKの紅白歌合戦も見なきゃ」

「え、朝起きたら?」


 星が補足してくれる。

「ブラジルと日本の時差は12時間だからね。紅白歌合戦も、ブラジルでは朝の7時半から始まるんだ」


 ――そ、 そっか。

 ここのところ、世界中を飛び回っていたせいか、時間の概念が崩れてきていた。


 間髪入れず、十萌さんが話に乗ってくる。

「ジャパンタウンの近くのホテルを抑えたわ。ジャックにも伝えておいたから、一旦ホテルに戻って着替えたら、すぐにサンパウロまで飛びましょう」


 ――あ、相変わらず仕事が早い。


「十萌さんも一緒に行ってくれるんですか?」

「わたしは夜に合流するわ。それにサンパウロ(あそこ)には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 **********


 12月31日 ブラジル・サンパウロ


「おみかん、食べる?」

 日本のみかんより一回り大きいオレンジを、ミゲーラのおばあちゃんの文江さんが、わたしと星に手渡してくれる。


 初対面のおばあちゃんと年越しそばを啜りながら、ブラジルのテレビで紅白歌合戦を見ている。

 ・・・・・・それも朝日が燦燦と照らす、大晦日の朝に。


 そんな世界線が存在するとは思ってもみなかった。


 今年91歳になるという文江さんは、驚くほど矍鑠(かくしゃく)としていた。強いブラジルの日差しで肌は赤黒く灼け、背筋も曲がっていたけれど、その話しぶりからは、確かな意志と知性が感じられる。


「最近の歌手はさっぱり分からないわね。やっぱり1979年が一番思い出深いわ。なんせ、美空ひばりと山口百恵の最後の共演だからね」


 もう半世紀も前のことなのに、まるで昨日のことのように語る。

 そんなおばあちゃんを、ミゲーラやその両親が、穏やかな目で見守っている。


 文江さんとの会話は楽しかった。

 文江さんのご両親は、1930年にこのブラジル・サンパウロに移住し、その8年後の1938年に、この地で生まれたという。


 飢えや病気と戦いながらも、ほとんど荒野に近い土地を開墾し、コーヒー農園を作っていく。

 異国・ブラジルの地で、想像を絶するはずの苦労があったはずなのに、文江さんの言葉はどこか軽やかだった。


 そう伝えると、文江さんはコロコロと笑う。

「ま、この歳になると、大変な思い出もたいがい美化されるか、忘れてしまうからね」

 

 けどね――。

 そう呟くと、不意に、文江さんの瞳が悲しみの色に染まる。


「忘れたくても、どうしても忘れられない記憶が一つだけあるの」

 気が付くと紅白歌合戦は終わり、地球の反対側から除夜の鐘が聞こえてきた。


挿絵(By みてみん)

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