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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第16章:ブラジル・未来世紀の覇権国家【2029年12月30日】
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第218話:流れる景色

挿絵(By みてみん)


「羨ましいって、わたしのことが?」

 わたしは、思わず声を上げる。


 並外れた知性に美貌、ついでに家柄も兼ね備えた十萌さんが、わたしみたいになるために、脳手術までしたいだなんて――。正直、冗談(ジョーク)にしか聞こえない。


(みんな)が羨むものを持ってる十萌さんが、なんでわたしなんか……」


(みんな)なんて関係ない。人は、自分が、”心から欲する相手”から求められない限り、幸せになんてなれないんだから」


 十萌さんの表情が、切なさに翳る。

 車窓から流れ込む夜の光が、彼女の顔に陰影を描く。


 その瞳は、目の前のわたしを見ているようでいて、どこか遠くを見ているようでもあった。


 ――ああ。

 わたしは直観した。


 彼女の心の中にはもう既に、”心から欲する誰か”がいるんだろう。

 そしてたぶん、その想いが永遠に実らないであろうことを、彼女自身は知っている。


 それでも求め続ける――。

 そんな決意の煌めきが宿っている。


「でも、怖いんです。もし、他人の記憶が自分に入り込めでしまうなら、わたしが誰かを信じ、欲する気持もまた、他人の誰かのものなんかじゃないかって」


 わたしは、堪えきれず言う。


 十萌さんはわたしまっすぐに見据えて、優しく言う。

「そうね。あんな経験があった後じゃ、そう思うのも無理はないわね」


 彼女の手が、わたしの頭に優しく触れる。

「もちろん、全てを受けて入れる必要はないわ。ましてやかつて滅びた帝国の怨念なんてね」


 きっと彼女は、インカの妄執に囚われた、バルバラのことを言っているんだろう。


「でも、今を生きる全ての人達は、歴史を背負って生きている。それは時に言葉で、時には遺伝子を介して。人の脳は、広大無辺だけれど、同時に限界もある。だからこそ、あなたは選ばなければいけないの。誰を欲し、何を護るのかを」


 十萌さんのしなやかな指が、そっとわたしの瞼に触れた。

 その指に誘われるように、わたしは、目を閉じる。


 ――誰を欲し、何を護るのか……。


 わたしの中に、まずは太陽のような星の笑顔が浮かび、直後に、月のようなカイの横顔が脳裏に去来する。


 やがて、それがお父さんになり、おじいちゃんになり、夢華の像へと変わる。エリーが、アレクが、ソジュンの顔が明滅し、そのイメージがミゲーラへと変わったとき……。


 前の席から、ミゲー()ラの陽気な声が聞こえてきた。

「今から、みんなでサンパウロの僕の家に遊びにこない?一緒に新年を祝おうよ」


挿絵(By みてみん)

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